「えぇーっ、そうなのぉ?なーんだ」
そう言いつつもニヤニヤしているカナを見て、私は苦笑いをした。
「俺は素原灯輝。大学一年生です。よろしくね」
「よろしくですー」
カナは丁寧にお辞儀をして、悠平くんのぽかんとした顔を吹き飛ばすようにお辞儀をさせた。
しばらく、沈黙が続く。カナが、口を開く。
「…八木ちゃん」
「な、何?」
「…本当にごめんなさい」
先ほどのお辞儀よりも、もっともっと深く、カナは頭を下げていた。
悠平くんが、驚いたように目を見開いている。
「今更もう信用するものなんて残っていないと思うけど、これからの私を見てください。八木ちゃんが言ってくれてから、私は変わったと思う。私は八木ちゃんに、何度も酷いことをしてきた。言い訳みたいだけど、それはみんなが慕ってくれて、なんでも許されるって、馬鹿みたいな考えになってたから」
「…みさちゃん、このひといじめてたの?」
「…そうだね」
カナは、今にも壊れてしまいそうな弱々しい声で言った。そして、いつもは自分のことを「あたし」と呼ぶのに、今は「私」になっていた。
「いくら謝っても、意味なんてとっくに消えてるのはわかってる。でも、謝らせてください。ごめんなさい」
「金沢さん、もういいよ。顔を上げてよ」
自分でも、散々いじめられてきたその犯人にこんな優しい言葉をかけるのは、どうかと思ってしまった。
「無理です。そんな甘えられない」
カナは、ずっとお辞儀をしたままだ。
「八木ちゃんの言葉をずっと考えてた。それで私は、変わろうと思ったの。言い訳でしかないけど、本当。二度とあんなことはしないと誓うので、これからの私も見てください。私は、八木ちゃんと友達になりたかったんだ」
「…うん。お互い、頑張ろうね」
そう言うと、カナは顔を上げた。泣いていた顔には、うれしいというそのままの顔が、はっきりと映っていた。
「それで、少し訊いてもいい?」
私はカナに訊ねる。
「何?」
「あの校庭の桜について、何か知らない?それを今灯輝さんと探してて」
「うーん…ごめん。ちょっとわかんないな。でも、がんばって」
うん、と頷くと、カナは視線を少し下に落とした。急にだけど、と言って、カナは続けた。
「八木ちゃんが知らなそうだから、一応言っておきます。私は、ほかの女子高校生よりも、全然普通なんだ。…放課後にどこか寄り道したり遊んだり、なんにもしたことないの」
「え…」
「うん。ごめんね、なんか。八木ちゃんの妹さんよりも、うちの悠平の方が小さいから、毎日放課後にこの公園で遊ばせてるんだよね」
そうなんだ、と言って、悠平くんを見る。退屈そうに砂遊びをしていたので、小声でごめんねと言った。
「だから…。みんなそれぞれイメージがあるかもしれないけど、全然違ったりもする。それが、私の中で八木ちゃんだったの。思っていたよりももっと、すごいかっこよかった」
「そんな。なんで」
「素原さんもそう思いますよね」
灯輝さんが、うんうんと言いながら頷く。
「…桜、がんばってね。応援してる」
そろそろ時間やばいから帰るね、と言って、カナは悠平くんを立たせる。
「ありがとう。金沢さんも、悠平くんも、またね」
「ばいばい!」
悠平くんが手を振ったので、振り返した。
「仄花ちゃん、よかったね」
「…うん。なんだか、金沢さんの思っていることがそのまま伝わってきました」
「じゃあ、また明日から桜探しがんばろう!」
「はい!がんばりましょう!」
輝かしく光る夕暮れの空、私たちは「また明日」という言葉を残して別れた。
温かな家の香りと同時に、ただいまという言葉が愛しかった。
そう言いつつもニヤニヤしているカナを見て、私は苦笑いをした。
「俺は素原灯輝。大学一年生です。よろしくね」
「よろしくですー」
カナは丁寧にお辞儀をして、悠平くんのぽかんとした顔を吹き飛ばすようにお辞儀をさせた。
しばらく、沈黙が続く。カナが、口を開く。
「…八木ちゃん」
「な、何?」
「…本当にごめんなさい」
先ほどのお辞儀よりも、もっともっと深く、カナは頭を下げていた。
悠平くんが、驚いたように目を見開いている。
「今更もう信用するものなんて残っていないと思うけど、これからの私を見てください。八木ちゃんが言ってくれてから、私は変わったと思う。私は八木ちゃんに、何度も酷いことをしてきた。言い訳みたいだけど、それはみんなが慕ってくれて、なんでも許されるって、馬鹿みたいな考えになってたから」
「…みさちゃん、このひといじめてたの?」
「…そうだね」
カナは、今にも壊れてしまいそうな弱々しい声で言った。そして、いつもは自分のことを「あたし」と呼ぶのに、今は「私」になっていた。
「いくら謝っても、意味なんてとっくに消えてるのはわかってる。でも、謝らせてください。ごめんなさい」
「金沢さん、もういいよ。顔を上げてよ」
自分でも、散々いじめられてきたその犯人にこんな優しい言葉をかけるのは、どうかと思ってしまった。
「無理です。そんな甘えられない」
カナは、ずっとお辞儀をしたままだ。
「八木ちゃんの言葉をずっと考えてた。それで私は、変わろうと思ったの。言い訳でしかないけど、本当。二度とあんなことはしないと誓うので、これからの私も見てください。私は、八木ちゃんと友達になりたかったんだ」
「…うん。お互い、頑張ろうね」
そう言うと、カナは顔を上げた。泣いていた顔には、うれしいというそのままの顔が、はっきりと映っていた。
「それで、少し訊いてもいい?」
私はカナに訊ねる。
「何?」
「あの校庭の桜について、何か知らない?それを今灯輝さんと探してて」
「うーん…ごめん。ちょっとわかんないな。でも、がんばって」
うん、と頷くと、カナは視線を少し下に落とした。急にだけど、と言って、カナは続けた。
「八木ちゃんが知らなそうだから、一応言っておきます。私は、ほかの女子高校生よりも、全然普通なんだ。…放課後にどこか寄り道したり遊んだり、なんにもしたことないの」
「え…」
「うん。ごめんね、なんか。八木ちゃんの妹さんよりも、うちの悠平の方が小さいから、毎日放課後にこの公園で遊ばせてるんだよね」
そうなんだ、と言って、悠平くんを見る。退屈そうに砂遊びをしていたので、小声でごめんねと言った。
「だから…。みんなそれぞれイメージがあるかもしれないけど、全然違ったりもする。それが、私の中で八木ちゃんだったの。思っていたよりももっと、すごいかっこよかった」
「そんな。なんで」
「素原さんもそう思いますよね」
灯輝さんが、うんうんと言いながら頷く。
「…桜、がんばってね。応援してる」
そろそろ時間やばいから帰るね、と言って、カナは悠平くんを立たせる。
「ありがとう。金沢さんも、悠平くんも、またね」
「ばいばい!」
悠平くんが手を振ったので、振り返した。
「仄花ちゃん、よかったね」
「…うん。なんだか、金沢さんの思っていることがそのまま伝わってきました」
「じゃあ、また明日から桜探しがんばろう!」
「はい!がんばりましょう!」
輝かしく光る夕暮れの空、私たちは「また明日」という言葉を残して別れた。
温かな家の香りと同時に、ただいまという言葉が愛しかった。