昨日は、カナに対して感情的になってしまい、ずっとトイレにこもっていた。さすがに、そんな教室に行ったら、なにかの圧でつぶされてしまいそうだったからだ。そのため、灯輝さんのところにも行く気になれなかった。
けれど、今日はちゃんと授業を受けた。ただでさえ、頭の要領が悪いのだから。それはさすがに受けなければ。
それから、カナに謝ろうとも思った。でも、そんな簡単にできるようなことではなかった。
今日は、灯輝さんのところへ行きたかった。
「…仄花ちゃん。昨日は来なかったから、今日来てくれてよかった」
「…ごめんなさい」
「え?何、どしたの」
「…迷惑になるのはわかってます。だけど…、話させてください」
私は、ひたすらごめんなさいと続ける。灯輝さんが驚いた様子でこちらを見るので、ますます謝りたくなってくる。
私は、カナのことを話した。こんなことがあって、今少し気持ちが沈んでいるんです、と。
すると灯輝さんが、
「…そっか。がんばったんだね」
と言って、背中をぽんぽんと優しく叩いてくれた。安心して、心が温かくなった。
「妹にも伝えました。弱くて情けない姉なのに、すごく同情してくれて。かわいい妹です。私なんかよりも、大人かもしれないけど」
「妹さんいるんだ。何歳?」
「今小六で、十一歳です」
「ふふっ、小学生か。いいお姉さんじゃん。かわいいなんて言うんだもん。俺は一人っ子だからわかんないけど」
反抗しないので、と言うと、会ってみたいと灯輝さんが呟いた。
そしてふと、こう思ったのだ。
「…灯輝さんって、温かくて、優しいですよね」
そうかなぁ、え~??と、少し照れくさそうに笑う灯輝さんは、とても儚く見えた。
けれど次の瞬間、フッと顔が曇ったように、作り物の笑顔になった。
「…俺なんて、そんなこと、ないよ」
小さな声で聞こえなかったけれど、何かを言っていたことはわかった。
それが何かとは知らずに。
「…俺みたいな落ちこぼれは、いらないんだから」
「? ごめんなさい、聞こえなかった…」
「あっ、なんでもないよ。ごめん。独り言」
灯輝さんが立ち上がった。どうやら、しだれ桜の絵が完成したようだ。また、別の植物を描くらしい。
「…これ、ツツジですか?」
「うん。もう枯れて花が少なくなってきてる、これも綺麗」
灯輝さんはスケッチブックを取り出し、早速絵を描き始めた。
その真剣な眼差しは、その植物だけに注がれる、愛情と集中だった。