——みつきは大きくなったら、一体どんな人になるんだろうね?
記憶に残る母はいつだって、優しい瞳でこちらに語りかけてくれた。
——やっぱりパパに憧れて警察官になったりするのかな?
——やめとけ、やめとけ。警察官の仕事なんて実際には地味なことばっかりで、刑事ドラマみたいなカッコいい活躍なんてほとんどないんだぞ?
それに危険もいっぱいだしな、と苦笑した父は、それでもどこか満更でもない様子に見えた。
口ではこう言っていても、やはり自分の子どもに憧れられるのは親として期待してしまう部分もあったのかもしれない。
事実、二十年前の栗丘みつきは、警察官として働く父の姿を誇りに思っていた。
家ではトランクス一丁で歩き回って母に注意されるのが日常茶飯事だった父だが、ひとたび外に出てあの濃紺の制服に身を包むと、まるで別人のように頼もしく見えたものだ。
——もちろん、お前がどーしても警察官になりたいって言うならパパは否定しないぞ。でもこれだけは覚えておけよ。どんな仕事にも嫌なことだとか、面倒だったりしんどかったりする面もあるんだ。そういうのも全部引っくるめて受け入れなきゃいけない。それを理解した上で、それでもその仕事がしたいって言うなら、それはお前が本気だってことだから、パパは歓迎するぞ。
——もう、瑛太さんったら。そんな難しいことを言っても、みつきにはまだわからないわよ。
母がそう言って笑うと、同じように父も笑った。
穏やかで、幸せな時間。
数少ない両親との記憶の中で、最も鮮明に思い出せるのがこのやり取りだった。
「……にしても、もうちょっとぐらい身長は伸びると思ってたんだけどなぁ」
退勤間近の交番内で、栗丘は窓に映った自分の姿に溜息を吐く。
子どもの頃から憧れだった警察官になって早五年半。
二十三歳という年齢だけ見れば立派な大人になったというのに、その見た目は未だに小中学生と間違われるような幼い容姿だった。
これでは父と同じ警察官といえども格好がつかない。
過去の写真を見る限り、父はそれほど低身長でもなかったはずだが。
「なーに暗くなってんすか、栗丘センパイ。左遷されたのがそんなにショックなんすか?」
と、そこへ同じく退勤間近の後輩・藤原が上機嫌に声を掛けてくる。
「藤原。なんだよ、左遷って」
「明日から別の部署に異動でしょう。みんな言ってますよ、『栗丘さんは左遷されたんだ』って」
「はあ? 何だよそれ!」