二十××年 一月 十六日。
 十七時。


 聖花は一人、両親の寝室にいた。
 碧海雅博が帰宅する時間まであと一時間ある。
 碧海響子は先程買い忘れていた調味料をスーパーへと買いに行った。最速でも十五分は帰宅しないと踏んだ聖花は自身の力で、ずっと謎だったことに触れようとしていた。


 碧海夫婦は本当に聖花を愛している。行事事は大袈裟なほど気合いを入れていたし、何かとあれば写真やビデオに聖花を収めていた。
 大掃除の時に知ったことだが、聖花が小学生の時に使っていた教科書、ドリル、テスト用紙などは全てファイリングして保存してある。それだけ聖花の成長を見守り、収め続けているならば赤ん坊の時の写真や映像が残っていても可笑しくない。だけど、ないのだ。聖花が知る限り二歳からの写真や映像しかこの家にはないのだ。


 聖花がそれを知ったのは十歳の時だった。
 半分成人式。と称し、自身の赤ちゃんの写真を見て自身の成長を感じながら、過去と未来の自分にお手紙を書いてみよう。という宿題が出されたことがある。

 その時の聖花は笑顔で響子に写真を求めた。だが与えられたのは写真ではなく、申し訳なさそうにする響子の表情と写真が無いという話だけだった。純粋に理由を聞けば、写真や映像を記録する時間と心のゆとりが持てなかったという謝罪と、今後の聖花ちゃんをたくさん収めていくという約束が返ってきた。


 聖花は幼いながらにもこのことについては深く聞いてはいけないのだと察し、納得したように偽った。だが心の中ではずっと不思議に思っていた。響子が写真のことを話すとき、一度も聖花の瞳から視線を外さなかったからだ。それは響子が嘘をついたり言葉の真実を濁すときにやる癖だと、子供ながらに察していたのだ。


 聖花にはもう一つ不思議に思うことがあった。

 響子は時折クローゼットの前で座り、アルバムを開きながら悲しそうな笑みを浮かべていた。聖花がそれを知ったのは中学一年生の時だった。


 聖花が呼びかければ響子は慌てて笑顔と話題を作って話し、アルバムをクローゼットの中にしまい込んだ。聖花は不審に思ったが、あえて深入りすることはなかった。


 家族にだって秘密はあるだろうし、触れて欲しくないパーソナルな部分の一つや二つくらいあっても可笑しくない。むしろ一個人として生きているのだから、そうあるのが普通だと感じ、あえて触れないように心がけた。だが本当は本能的に逃げていたのだろう。それらに深入りすれば何かが変わってしまうと感じていたから。


「……お母さん、ごめんなさい」

 聖花は苦し気な声で謝り、クローゼットの扉を開ける。右側には雅博のスーツセットが五着かけられ、左側には響子の洋服がかけられていた。
 聖花はしゃがみ込み、スマホライトを照らしながら洋服の隙間を縫うように中を確認する。


「ぁ!」
 聖花は左奥に六十センチ程の段ボールを一箱見つけて引っ張り出した。ありがたいことにテープは貼られていない。


「ほんまにごめんなさい」
 聖花は顔の前で両手を合わせて苦悶の表情で謝り、段ボールの中身を確認する。
 段ボールの中には新生児が着用するおくるみや、一~二歳が着用しそうな洋服や手袋が入っていた。


「これだ」
 聖花は洋服の上に乗っていたアルバムを恐る恐る手に取った。
「……ほんまにええんかな?」
 アルバムを両膝の上に乗せた聖花は動作を停止させて不安気に呟く。
 罪悪感と恐怖、モヤモヤした想いから解放されたいという気持ちが混同して前に進めない。
 唐突に聖花の脳裏に幼い頃の記憶がフラッシュバックする。


――なぁなぁ、お母さん。聖花も妹か弟が欲しい。

 六歳の聖花はそんなことを響子に言ったことがある。


 学校で上手く馴染む所かイジメの標的となって不登校となっていた時期だ。聖花は妹か弟が出来れば寂しくないと考えたのだろう。
 そんな幼い聖花を響子はそっと抱きしめた。


――堪忍やで。そのお願いは聞いてあげられへんわ。妹や弟はおらんけど、お母さんとお父さんがずーっと聖花の傍におるさかい。

 抱きしめられていた幼い聖花は響子の表情を知る由もないが、響子が涙声であることを感じ取っていた。幼い聖花は母親を泣かせてしまった罪悪感から、自身の気持ちを慌てて隠した。


――分かったぁ。ほなお父さんとお母さんがず~っと聖花の傍におってな。そしたら聖花は寂しない。

 と笑顔で伝える幼き聖花は、それ以来妹や弟の話題を上げることはなかった。


「やっぱり止めよう。こんなんフェアやない。もしこれで真実を知ったとしてどうなるん? 今が幸せやったらそれでええやん」
 聖花はそう自身に言い聞かし、アルバムを開きかけていた手を止めた。


――お前は、なぜ碧海家に住んでいる。あの者達と血を分け合ってないのであろう?


――真実と思うものが虚像だということだ。お前と血を分け合った――ッ。


 鴉に言われた言葉が聖花の鼓膜に響く。
 何故鴉は自身が知らなかった自身のことを知っていたのかという謎と、何を言おうとしていたのかという気がかりが聖花の頭を悩ませた。


――碧海聖花の胸の内ではすでに両親への不信感が存在していたということだ。でなければ、生れ落ちた瞬間から同じ世界で共に過ごしてきた両親への絆や想いは、容易くブレることはないはずだ。碧海聖花の中ではすでに気がかりの種――”不信感”があったと言う証拠。だから鴉の真実か偽りかも分らぬ言葉に容易く揺り動かされることになる。

 白の言葉が聖花の鼓膜の心に響く。


「気にしない気にしない。私は碧海家の娘。碧海雅博がお父さん。碧海響子がお母さん。それが事実。二人に不信感なんて持ってへん」
 聖花はすでに抱え込んでいる不信感を振り落とすように頭を左右に振った。


「もうしまおう。お母さんが帰ってきてまうわ」
 膝の上でアルバムを一度立てて持ち上げた瞬間、アルバムに挟まれていた母子健康手帳がポトリと抜け落ちる。

「ぇ?」
 落ちた母子健康手帳は表面で聖花の両膝の上に落ちており、嫌でも目につく。

【一九九五年 三月 二十七日
 母子健康手帳

 保護者の氏名 碧海響子
 子の氏名 碧海すみれ  第一子
 生年月日 一九九五年 三月 二十七日
 性別 女の子】

 時が止まったように硬直する聖花の額に冷や汗が流れる。
 本来であれば、第一子は聖花のはずだ。だがここに書かれているのは自分ではなく、碧海すみれ。という女の子なのだ。
「……し、しまわんと」
 まるで見てしまった事実に目を伏せるように震える声で呟く聖花は、アルバムの中身を見ないように気をつけながら、痙攣する手で母子健康手帳を終う。
 だがどんなに真実から目を背けようとも、知ってしまった真実を覆い隠そうとしても、人間の力では一度知ってしまった真実の記憶は二度と消えはしない。
「聖花ちゃん? 何してるん?」
 背後から響子の声が響き、聖花は飛び上がるように立ち上がった。
「ぁ……ぉ、お母さん」
 震える声で響子を呼ぶ聖花は肩越しに振り向く。驚きと戸惑いが混同する顔をした響子と視線が合う。
「それ、見てしまったんか?」
 響子の問いに対し、フルフルと首を左右に振って否定する。だが堪え切れず、聖花の瞳から一筋の涙が零れ落ちる。
「……ごめんなさい。でも、写真、見てへん。見よう思ぉたけど、やっぱりあかん思ぉてやめてんよ」
 聖花は途切れ途切れに伝える。
「せ、せやけどな、なおそう、思った時に、ぼ、母子健康手帳が落ちてきて――ッ」
 両手で顔を覆った聖花は、ごめんなさい。と言って泣き崩れる。
「聖花っ」
 響子は聖花に駆け寄り、正面から抱きしめる。
「見てしまってんやね。それを」
「お母さん……ッ」
 聖花は抱える気持ちと言葉を呑み込んだ。
「黙ってて堪忍やで」
 響子は静かに涙を溢す。聖花はフルフルと首を左右に振る。
「……いつから、疑問に思ってたんや?」
 響子の問いに答えることを少し躊躇しながらも、聖花は正直に幼少期の頃から不思議に思っていたことを恐る恐る吐露していった。
 小さな相槌を打ちながら静かに聖花の話に耳を傾けていた響子は、音もなく涙を流し続けた。


「ずっと辛い思いをさせてたんやね。ずっと気になってたんやね。せやけど、お母さん達を守ろうとしてくれてたんやね。ごめんなぁ。聖花が色々なことに気がついていたこと気づけんでごめんやで。もっと、早く真実を伝えたらよかったなぁ?」
 涙ながらにそう言った響子は正面からそっと聖花を抱きしめた。
 聖花は響子の言葉に小さく首を振って否定する。
 瞬間瞬間に自分の想いや疑問に蓋をし続けたのは自分だ。母親が悪いわけではない。自分で真実を暴いてゆくことが恐ろしくて出来なかったのだから。
「……私は、お父さんとお母さんの本当に子供じゃないん?」
 聖花は一筋の希望を持ちながら問いかける。
 第一子が天国の橋を渡ってしまったということも考えられる。ただ自分が第一子じゃなかっただけではソレとして決定するには早すぎると感じているのだろう。


「……ほんまは、ずっと黙っておくつもりやったんや。せやけど、この状況で生きていくんは苦しいと思うんよ。せやから、真実を伝えるな」
 聖花はコクリと頷く。
「碧海すみれ。はお父さんとお母さんの初めての子供やったんよ。せやけど、すみれは二歳の時に誘拐にあってしまった。私達は家族総出ですみれを探し回った。警察にも頼んだしね。三年間ずっと探したけど、見つからんかった――」
「……その子は、その……生きてるん?」
 聖花は躊躇しながら問いかける。これまで疑問に思ったことを一人で抱えて苦しんできたのだ。もう今日ばかりはと、疑問の丈をぶつけようと考えているのであろう。不安や恐怖は本当は存在しない真実さえも作る力を持っているから。

「……分からへん。どっかで、生きてくれてたらええけどな」
「……もし、もしその子が生きてたら会いたい……よな?」
「せやなぁ。会えるもんなら会ってみたいけど、どこかで幸せに生きてくれてたらそれでいい。というか生きてくれていたら、それでええわ。少なくとも、ここの地域にはおらへんと思う。もしかしたら孤児院に預けられてるかも知れへん思ぉて、近所の孤児院によく足を向けたりもしてたんよ。そん時に、聖花ちゃんと出会ったんよ」
 最初は苦痛そうに話していた響子であったが、聖花の話になると、苦し気だった表情を少し緩ませる。

「ぇ、待って。私、孤児院の子やったん?」
 響子の肩口に顔を埋めていた聖花は響子の二の腕を掴み、勢いよく上半身を離して響子を見る。その瞳は更なる戸惑いと動揺に揺れていた。
「聖花ちゃんは小さすぎて覚えてないと思う。まだ生後二ヵ月やったんやもん」


「わ、私、捨て子……やったん?」

 次々明かされる真実に動揺を重ねる聖花の声は震える。


「……それは分からへん。両親がすでに天国に旅立ってしもうてる可能性もあるから」


――碧海聖花の両親はすでに碧海聖花が生きている世界にはいない。

 聖花の鼓膜に白から告げられた真実が響く。



「……ん? ちょっと待って。生後二ヵ月に出会ったのに、なんで私の写真が二歳からしかないん?」
「それは、聖花を向かい入れてええ許可をもらうのに二年かかってしもうたから。聖花を養子縁組として迎え入れることは出来へんでな、普通養子縁組として迎え入れることが出来たんよ」
「その二つは何が違うん?」
 聖花は聞きなれない話に小首を傾げて問う。


「特別養子縁組であれば、産みの親と離縁は出来ず、聖花は一生碧海家の子供になる。簡単に言えば、私達と響子ちゃんが一生親子でいられるということ。普通養子縁組は、生みの親と育ての親、両者との縁が続く。大人になれば聖花の意志で碧海家との離縁が可能となり、私達が生みの親の元に戻るかを決められるんよ」
「そうなんや……」
 聖花は次々語られる事実に頭を傷ませる。


「なぁ~」
「ん?」
 響子は次の言葉を促すような優しい声を出す。
「……私は、これからどないすればいいん?」
「どないすればいいって?」
 響子は穏やかかつ優しい声音で問う。
「だって、血の繋がった親子やないんやろ? 私は今まで通りしててええん? お母さんとお父さんのことを、お母さん。お父さん。って呼んでもええん?」
 滲んでくる涙を瞳で押し留める聖花は、震える声で問う。
「……聖花が望むなら」
 聖花は響子の言葉にズキリと胸を痛ませる。
 本当は、もちろん。などの言葉で絶対的な肯定や、自身の受け入れを与えて欲しかったのだ。だが与えられたのは自由意志だった。
 聖花はどうしようもない気持ちを抱えながら響子から離れる。


「どないしたん?」
「どないもせーへん。ちょっと、お散歩してくる」
 不安気に問うてくる響子に対し力のない笑みを浮かべて答える。
「……そう。分かった。気ぃつけてな」
 響子は聖花を止めることなく送り出す。
「うん。おおきに。行ってきます」
 聖花は少し間を置き言って、その場を後にした――。


  †


 恭稲探偵事務所――。
 一七時四十五分。

 いつもの仕事スペースに白の姿はない。
 白は仕事デスクの左隣りにある赤いベアロ素材の背もたれが高貴な印象を与えるアンティークチェアで長い足を組み、膝の上で両手を組んで腰掛けていた。
 閉じていた瞼を静かに開けた白は、ミディアムロースト色をした円形サイドテーブルに置いてあるチェス盤をほんのしばし見つめる。
「智白」
 白は自分の背から少し離れていた所で控えていた智白を呼ぶ。その声音には微かに楽しんでいる色合いが含まれていた。
「かしこまりました」
 智白は白の意図を汲み取り、電話をかけながら恭稲探偵事務所を後にした。



 一人の残された白は長い足を組み直す。
 目の前にあるチェス盤を見つめる。すでに試合展開しているのか中々に動きが激しい。
 両者キングは元の配置に置かれている。
 白板のチェス。キングの左隣に白のルークがついている。
 二のdに白のクイーン。その右隣に白のルーク。
 三のaにビショップ、その右隣にはライトロースト色のポーン。そこから同じ列に、白のナイト、クリスタルのポーン、ライトロースト色のビショップとナイトが続いていた。

 次に黒板のチェスだ。
 五のeに黒のビショップ。
 八のfにルーク、その右隣にクイーン、その右隣にキングが置かれている。そしてなぜか、七のaに黒のナイトが倒れていた。
 他の駒はすでにチェス盤には置かれていない。
 不思議なチェス盤で繰り広げられるチェスの駒達を眺めていた白の口元が弧を描く。
 白は優雅な所作で二のeに置かれていた白のルークを二のgに動かす。


「運命の歯車がいよいよ動き出したか」
 と呟く白は、五のeに置かれていたビショップを左斜めに半歩だけ進ませ、白のルークを三のgに持ってきた。


 *



「はぁ~」
 重い溜息を吐く聖花は行く当てもなく重い足を動かす。
 閑静な住宅街ではあるが、帰宅者と時折すれ違う。その中には小さな子供と母親が手を繋いで仲良く帰路を歩く姿もあり、今の聖花にとっては目の毒のようだった。
 聖花は裏通りを通り、コンビニへと足を向ける。
 その頭上で大きな鴉が一匹舞っていることに気がつく様子はない


『碧海聖花』
 厚みのある低い声音が辺りに響く。
「⁉」
 聖花は肩を震わし、当たりを見渡すが誰もいない。そもそも裏通りだ。滅多に人が通らない。
『どこを見ている。天を仰げ』
 少しざらつきの残る声質と独特の緩いテンポで紡がれる音が響く。自分の持つ柔らかな場所にダメージを与えるような声音だ。
「まさかッ」
 と、一度耳にすれば二度と脳裏や鼓膜から離れることのない声音に勢いよく天を仰ぐ。
「!」
 頭上で舞っていた大きな鴉を見つけた聖花は目を見開く。
 鴉は聖花の驚きを気にも止めず、聖花の正面に降り立った。


『やっと、真実と思うものが虚像だったということを知ったようだな』
 鴉はあざけるように言った。
「⁉」
 鴉の言葉に目を見開く聖花は一度空気を飲み、口を開く。
「なぜ、貴方が私の知らない真実を知っていたんですか?」
『真実を知っていたのは吾輩だけではない。吾輩が使える主《あるじ》も知っている。おそらく白妖狐側も知りえているはずだ。その証拠に、我が主の駒は殺られている。そもそも、なぜ“ハンコクヨウ”のお前が恭稲白に守られている。どこで縁を結んだ? 人間世界にいるお前は人間世界しか知りえないはずだ』
「ハン……コク、ヨウ?」
 聖花は怪訝な顔で聞きなれない言葉を途切れ途切れに紡いで首を傾げる。


『恭稲白は今どこで何をしている? 知っているのであろう?』
 鴉は聖花の問いに答えるつもりは毛頭ないとばかりに、自身が持つ疑問だけを問うてくる。


「ぁ、貴方に答える義理はありません。答えるつもりもありません」
 鴉の威圧感に押し倒されそうになる聖花は一歩下がり、震える声で答える。実際、恭稲白が何処で何をしているか知らない。恭稲白と縁を繋ぐ場所や方法は知って入れど、それを他者に話すことはご法度う。仮に話していいとしても、聖花が鴉に白の素性を明かすつもりはないだろう。


『ほぉ。恭稲白が何処で何をしているのか本当に知らないのか? それとも、知っていて答えないと言っているのか?』
「……」
 聖花は真一文字に口を結ぶ。


『やはりあいつに似て浅はかなことだ』
「あいつ?」
 聖花は謎が増えるばかりだと、眉間に皺を寄せる。


『吾輩の口から真実を答えるつもりはない』
「ど、どうして私をつけてくるんですか?」
『主の指示だ。そして、今回の指示はお前を主の元につれてゆくこと』
 鴉は聖花と言う標的をロックオンさせ、聖花に向って飛んでくる。


「なっ!」
 聖花は顔を隠すように両腕をばってんマークを作ってガードさせた。
「聖花ちゃんッ!」
 女性の金切り声が辺りに響き、鴉はピタリと動きを止める。
 聖花が上半身だけで振り向くと、顔色の悪い響子が肩で息をしていた。聖花のことが心配で後を追ってきたのだろう。


『嗚呼、あの女か。面倒だな』
 鴉は標的を聖花から響子に変更させる。
「ぁ、あかんッ!」
 聖花は鴉に飛びつこうとするが、見事に空振りをしてコンクリートに身体を打ち付ける。一瞬痛みで顔をしかめるが、すぐさま立ち上がり鴉を追いかける。
 危険を察知した響子は腕で頭を抱えるようにしてその場にしゃがみ込む。
 大きく口を開いた鴉は響子の元に飛ぶが、いつの間に現れた男性がそれを遮るように響子の正面に立ち、木刀を二時の方角に振り切る。


「⁉」
 鴉は木刀を避けるように飛び上がり、一旦電柱に身体を止めた。


「二人共なにしたんや? なんでカラスに狙われてるんや? なんや怒らすことでもしたんか?」
 そう驚きの声を上げるのは、スーツ姿の碧海雅博だった。会社帰りに二人を見かけて飛んできたのだろう。
「雅博さん!」
 響子は安堵したよう雅博の名前を呼ぶ。
 聖花は安堵したように一つ息を溢すが、いつものように“お父さん”と口にすることはなかった。



「雅博さん、その木刀どないしたんですか?」
「ぁ、これはその辺におった男の子から貸してもろうた」
「おっちゃーん。僕の木刀返して下さーい」
 雅博の後を追いかけて来た小学校高学年程の男の子が裏通りを覗く。
「ぁ、すぐ返すわ。堪忍やで」
「……雅博さん。貸してもらったと言うはりますけど、あの子から奪ってきたように感じるのはうちの勘違いですやろか?」
「……まぁ、不可抗力や」
 響子の視線と言葉に居たたまれず、政宗はバツが悪そうに左頬を左人差し指でポリポリと掻きながら視線を逸らす。


『チッ! 次から次へと』
 鴉は腹正しさを吐露すると共に、黒色の煙で身体を覆わせる。
「ぇ?」
「なんやあれ?」
 碧海夫妻はぎょっとしながら鴉を見つめる。
「あかん! 二人共、その男の子を連れて逃げて!」
 危険を察知した聖花は叫ぶ。
「はぁ? 何を言うてんねん。なんで逃げなあかんのや?」
 雅博は意味が分からないとばかりに首を傾げる。
「育ての親も聡明な判断が出来ぬようだな」
 先程の鴉と同じ声音が辺りに響く。だがそこに鴉の姿はない。
 煙から抜け出すように、音もなく一人の男性が地面に着地した。


「!」
 あり得ない出来事に仰天した男の子は木刀を諦め、この場から逃げていく。
 碧海夫妻は震駭するあまり声も出ない。
 聖花はたらりと冷や汗を滴らせ、腕につけていた白狐ストラップをそっと握った。
 煙が寒風で吹き飛ばされ、男性の姿が露わになる。
 ニュアンスマッシュかつウルフヘアーにカットされた毛先は紅赤色に色づかせている。前髪は重すぎて目元が良く見えない。黒縁眼鏡をかけており、鼻筋は高い。黒いワイシャツとスラックスにはシワ一つなく、潔癖さを感じさせる男性だった。


「邪魔ならば、消してしまおう、ホトトギス」
 どこか声を弾ませる男は大きな口でニヤリと笑う。悪戯っ子のような八重歯が不敵に光る。
 その笑みと言葉に聖花達はぞくりと身震いをさせた。
 男はサッとしゃがみ込み、地を込んで碧海夫妻に鋭利な爪を向ける。白が傀儡愛莉を引き裂いた爪同等の殺人性がある爪だ。


「邪魔するなら、消してしまおう、ホトトギス!」
 どこからともなく現れた少女は可愛らしくも凛とした声音を響かせると共に、薙刀を斜めに上に振り払う。鴉男が持つ黒色の爪が宙に舞った。
「⁉」
 薙刀の風圧で鴉男の前髪が揺れ動き、動揺する瞳が見て取れた。その瞳の色は透明感の強いローライトガーネット色をしていた。黒崎玄音とよく似ている瞳だ。
 薙刀を振り上げた者は聖花と同年代くらいの少女だった。但し、ただの女子高生ではないことは見目や風格から見て取れる。


 シースルーバングの前髪に、大き目のウェーブがかかった白髪をツインテールに結っている。それだけでもコスプレかと二度見してしまいそうだ。
 大きな瞳にくっきり二重とぷっくりした涙袋。綺麗なEラインを持つ鼻は小鼻が小さく、ぷっくりした唇と小顔がどこかあどけなさを感じさせていた。完全なる左右対称の顔を持つ可愛らしくも美しいお人形のような少女の瞳は、一般的と言われる色とは違っていた。
 珍しい濃い赤紫色をした瞳なのだ。透明感はあまりないが少女の持つ光が放たれている印象が強い。例えるならば、パープライトのような瞳だった。
 鴉男は後ろへ飛び退いたと同時に、断末魔のような雄叫びをあげる。


 聖花が振り向けば、重たい印象を与える前髪をしたマッシュウルフヘアーの青年が立っていた。そして、その青年の髪色もまた白髪だった。
 鴉男は俯せに倒れ込んでのた打ち回っている。その背中には呪符が貼り付けられていた。おそらく青年が投げたのだろう。


「グッドタイミング」
 薙刀を如意棒のように持った少女は、青年に向ってグッドマークを左手で示す。
「姫もさすがだね」
「姫って呼ばないでって言っているじゃない! 耳が腐っているんじゃないの?」
 姫と呼ばれる少女はご立腹だ。
「碧海聖花さん!」
 青年は響子と雅博の元に駆け寄ろうとする聖花を透明感のある柔らかなハイトーンボイスで呼び止める。
「……」
 聖花は何も答えない。何故見も知らぬ青年が自分の名前を知っているのか、何故この青年の声音に聞き覚えがあるように感じるのか、薙刀を持つ美少女は誰なのか、脳内処理することが多すぎてついていけていない。


「恭稲さんがお呼びだよ」
「ぇ?」
 青年から飛び出る言葉に聖花は戸惑う。やはり白髪を持つ青年も白側のモノだったのかと思う聖花に対し、「僕は完全なる恭稲さんの仲間じゃない」と、揺さぶりとも言える言葉をかける。


「白樹《はくじゅ》! 聖花先輩を惑わせることを言わないで! 大体、まだそんなこと言っているの? 貴方も私達の仲間じゃないッ」
 姫は青年の言葉にさらに怒りを募らせる。
「惑わせているのは姫もだよね? 今の自分の姿、ちゃんと覚えている?」
「ぁ……」
 姫は墓穴を掘ったとばかりに天を仰ぐ。
「白樹さんって誰なんですか? どうして私の名前を知って……。というか私、貴方みたいな美少女を後輩に持った覚えはないんですけど」
 聖花は白樹《はくじゅ》と呼ばれる青年と、姫と呼ばれる美少女を交互に見ながら地団太を踏む。
 聖花よりも理解不能な話を聞かされている響子と雅博はポカンとしている。
 この状況に置いても、聖花の耳に白の声は届かない。例の白狐ストラップが発動する様子もない。


「ど、どないしたらええん?」
 パニックの聖花はオロオロするしか出来ない。

「聖花」
 そんな聖花に手を差し伸べるようにして、雅博は聖花の名前を呼んで左手を差し出す。
「こっちや。なんや何が何やらよぉ分からへんけど、取り合えずお父さん達の傍に」
「……ぉ、お父さん」
 聖花はどもりながら呟く。先程真実を知ったばかりだ。今まで通り呼ぶことも、今まで通りに接することも戸惑いがあるのだろう。
 その事実を知らない雅博だが、聖花の様子がいつもと違うことに気がつき、腰が抜けてしゃがみ込んでいた響子に視線を移す。


「……ごめんなさい。聖花はもう、あの事実を知っています」
「!」
 青天の霹靂とばかりに目を見開く雅博は言葉を失う。だがそれは一瞬のことだった。


「聖花、何を遠慮しとるんや? 何を気にしとるんや? 血縁がないからって、俺等は聖花の両親ではないんか? 同じ時を過ごした時間も大切な思い出も、みんなみんな偽りやったって言うんか? 幻想やったって言うんか?」
「そ、そうやない。そうやないけど……」
 聖花は雅博の言葉にがぶりを振るが、その先の言葉が出てこない。


「聖花ちゃん、戻ってきて。うちは聖花ちゃんの本当の母親やない。雅博さんも同様や。せやけど、うちらは聖花ちゃんを我が子のように思ってる。

 すみれのことで精神崩壊していた私を救ってくれたんは、孤児院でシスターに抱っこされていた生後二ヶ月の聖花ちゃんやった。

 シスターは聖花ちゃんの瞳のことを心配してはった。その瞳で里親達に避けられるんやないかって。でもうちは、聖花ちゃんの瞳は宝石のように美しいと思った。

 それに、聖花ちゃんは小さな小さな手をうちに伸ばしてくれたんや。うちが人差し指を出したら、聖花ちゃんはその小さな小さな掌でうちの人差し指を握ってくれて、満面の笑顔を見せてくれたんや。

 聖花ちゃんは覚えてないやろうけど……。うちには聖花ちゃんが天使に見えたんよ。そん時、この子を碧海家の子供として大切に大切に育ててゆきたい。同じ時間を過ごしてゆきたいって思ったんよ。

 聖花ちゃんには普通の子供よりも寂しい想いをさせてしまったな。辛い思いもたくさんさせてしまったな。今もさせてしまってる。堪忍やで。せやけど、それ以上に聖花ちゃんには笑顔になって欲しいんよ。

 うちらが聖花ちゃんを笑顔にしてゆきたいんよ。まだまだ愛情を注いでゆきたいんよ。聖花ちゃんはうちらの天使なんよ。
 ……せやから、もう一度うちらをお父さんとお母さんにしてくれへんかな?」
 響子はポロポロ涙を溢しながら訴える。


「お母さん……」
 聖花は響子の想いにもらい泣きする。
 姫や白樹の瞳にも薄っすらと涙が滲んでいた。


「碧海聖花さん、こっちへ。今自分がどう動くべきなのか、どう動く方が賢明なのか、君にならちゃんと分かるはずだよ」
 頭を振って自分を取り戻す白樹は、再び自分の元に聖花を呼び寄せる。


「あかん」
 響子は立ち上がろうとするも、力が抜けて立ち上がることが出来ない。響子は雅博に懇願するような視線を向ける。

「分かってる」
 雅博が聖花の元へ走ろうとしたとき、突如現れた男性によって、響子の頭上に銃口が向けられる。
「貴方がそちらへ行くならば、私はこの引き金を引きます。大人しくしてなさい」
 冷徹な声音が響く。
 少しハリ艶を失ったセンター分けセミロングの白髪を寒風で躍らせた男性のその声音や表情から、これが冗談などではないのだと嫌でも理解できた。


「ひっ!」
 響子は恐怖で硬直する。
 脅された雅博は身動きが取れない。
「‼」
 聖花は驚きで目を見開く。
「ぇ⁉」
 姫は戸惑いの声を溢す。自身にとって想定内のことが起こっているのだろう。
「白様がお呼びですよ」
 響子に銃口を向ける男性は、先程よりもワントーン低い声音で聖花に呼びかける。


「ッ……」
 聖花は拳を握りしめ、一歩後ろに下がる。
 ジジッ!
 聖花の左耳元で金属音が鳴り、聖花は思わず顔をしかめる。
「く、恭稲さん?」
『嗚呼』
 優しく響く低音はアンティークのような重厚感の中に、深くて切ない色香が流れていた。今となってはもう聞きなれた声音だが、唐突に聞こえてくれば、心臓は嫌でもドクリと脈打つ。


『碧海聖花。何を躊躇している。人は一度真実を知ったとき、もう二度と真実を知らなかったときの自分には戻ることはない。もちろん、元の生活に戻ることも出来ない。自分の想いが変われば世界の見え方が変わるからな。それでもなお元の生活のまま過ごしたいと言うのならば、そうすればいい。だが、より前に進む覚悟、より深い真実を知る覚悟があるのならば、恭稲探偵事務所へ訪れろ。……碧海聖花、契約内容を忘れるな』

 ヴァイオリンのD線を奏でるような声音でありながら、その口調と伴ってどこか威圧感を感じさせる音が聖花の左耳に響く。
 白の言う契約と言うのは、五つ目の条件のことを示しているのだろう。
 選択権を与えているように見えるが、選択権を与えていないに等しい。その証拠に、男性は今も響子に銃口を向けたままなのだから。


「大切な人を守るために貴方が今取るべき行動はお分かりですよね。そこまで思考は腐っていないはずです」
「ふ、二人に手を出さないで下さい」
 聖花はどもりながらも男性に向き合う。
「貴方の選択次第で出しませんよ。ただ、今日一日の記憶を消させてもらいます。もちろん、貴方に選択権はありません」
「……分かりました。二人の命が助かるならそれで構いません」
 背に腹は代えられないと、聖花は男性の言動を受け止める。
「利口ですね」
 男性はどこかホッとしたように、微かな優しさを滲ませた笑みを口端に浮かべる。
 だがその刹那の穏やかさはすぐに見る影を失い、「(しら)姫《き》、指示通りに」という冷静で太い幹のような声音を響かせた。
(しら)()?」
 見知らぬ名に聖花は視線をさ迷わせる。
「はい」
 白姫と呼ばれていた美少女は凛とした声で答える。姫というのは名前ではなく、愛称だったようだ。


「聖花先輩、私について来て」
「――はい」
 聖花は戸惑いながらも、響子と雅博を守れるならばと二人に背を向けて白姫と呼ばれる美少女の元に駆け寄った。


「聖花ッ! 行ったらあかん!」
「聖花ちゃんッ!」
 雅博と響子が悲痛の叫びを上げるが、聖花はその声に答えることはない。答えたが最後、二人の命が殺められるかもしれないのだ。いつまでもおんぶに抱っこの選択をし、その道を歩んでいるだけでは、守れるものも守れない。


「聖花先輩、手を」
 と言った白姫は薙刀を持っていない右手の平を聖花に見せる。
「はい」
 聖花は差し出された手の平にそっと自身の右手を乗せた。
「ありがとう。パパが手荒なことをしてごめんなさい。私が白様の元に連れて行くから安心して」
 どこか切なくも凛々しい微笑みを溢す白姫は、差し出された聖花の手をぎゅっと握り返す。けして離さぬように。
「ぇ?」
 パパというのは誰のことを指すのだろうと戸惑う聖花だが、おちおち聞ける状態ではない。


「ッ⁉」
 白姫の言葉に反応した鴉男はフラフラと立ち上がる。
「く、恭稲、白……居場所を、教えてもらおうか」
 鴉男は重い足取りで白姫の元に向おうとするが、再び飛んできた呪符が邪魔をする。
「君は大人しくしていて。面倒だから」
 鴉男を五つの呪符で囲むようにして飛ばした白樹は手を動かす。
 右手親指と人差し指の指先を塩少々つまむ形にして左首の下に置くと、右へ移動させながら開いて最後は閉じた。その指の形のまま勢いよく左へスライドさせ、「汝、我が手中に囚われたし」と唱えると、勢いよく両手を叩く。
 呪符は光柱となり鴉男を囲む。

「ッチ! 鬱陶しいもんを」
 鴉男は舌打ちを一つ落とし、残された左手の鋭利な爪で呪符を引き裂こうとするが、呪符に跳ね除けられて呻き声を上げることになる。
「足掻いても無駄だよ。元々君も戦闘力に特化していない。姫の薙刀に塗られた毒もそろそろ回ってくるだろうし」
「はぁ?」
 白樹の言葉に対し、血管をピクリと額に浮かび上がらせて腹正し気な声を溢す鴉男だったが、唐突に膝から崩れ落ちた。

「⁉」
 鴉男は何が起こっているか分からない。
「ほらね。もう君は動けない。少なくとも、半日はね」
 白樹の言葉通り、鴉男は俯せに倒れたまま指一本動かない。視点はある一点を見つめたままだ。まるで蝋人形のようにピクリとも動かない。
 それを横目で見ていた白姫はしてやったり、という風に口端を上げた。
 白姫は聖花の手を握ったまま、薙刀で宙に円を描く。
「汝、我が道を望みの扉へと導きたし」
 白姫がそう唱えた瞬間、二人は光の柱に包まれ、その場から姿を消した。


「聖花ッ!」
「聖花ちゃんッ」
 目の前で娘が消えた雅博と響子は悲鳴じみた声で叫ぶ。

「白樹」
 響子に銃口を向けていた男性が白樹の名を呼ぶ。それだけで男性の意図を理解する白樹は無言でコクリと頷き、二枚の呪符を碧海夫妻の額に飛ばした。


「汝、我が手で眠りし時の橋」
 白樹は呪文を唱えながら、右手の甲を左耳の傍に持って行き、手の甲にそっと乗せるように頭を左に傾ける。そのまま、右手を右宙にスライドさせて右手の平で握り拳を作る。
 拳を作った瞬間、碧海夫妻は意識を手放した。いつの間にか前方に回っていた男性はうつ伏せで倒れそうになる二人を前方から支えた。


「兄さん」
 白樹は少し嬉しそうに男性の元に駆け寄った。
「守里愛莉はどうなっていますか?」
 男性は笑みを返すこともなく、冷静に状況を確認する。
「僕の傀儡が守っているから大丈夫。それに、守里愛莉さんのスマホにはウイルスを飛ばしているから、あの子がスマホを持っている限り監視できるよ。家の中に監視カメラも仕掛けたしね」
 と言った白樹は尻ポケットからスマホを取り出し、智白に画面を見せる。
 そこには白のL字ソファに座ってテレビを見ている愛莉の姿が映っていた。


「これはテレビに飛ばした監視ウイルスが映している映像だね」
 白樹はにこやかに穏やかな口調で怖いことを平然と言ってのける。
「……つくづく敵に回したくない者ですね」
「兄さんに言われたくないよ」
 白樹は、どの口が言っているんだ、とでも言うように短く吹き出した。

 二人はどこかこの場と状況に似つかわしくない穏やかな空気に包まれていた。


「無駄話をしている暇はありません。この二人を家に戻し、記憶を消さなくては。私は碧海雅博を背負いますから、白樹は碧海響子をお願いします」
「分かった。で、あの鴉男はどうするの?」
「――」
 男性は冷めた視線を鴉男に向け、「捨てておきなさい」と答える。
「人間に見つかったら面倒じゃない?」
「……」
 しばし考える男性は徐にスーツの内ポケットから一枚の呪符を取り出し、「二の封」と唱えた。すると、うつ伏せ状態で倒れていた鴉男や呪符達が姿を消す。


「人の目に触れなければ問題ないでしょう」
「さっすが~」
 白樹は感心したように声を上げる。
「行きますよ」
 雅博を背負った男性は碧海家に向って歩き出す。
「ぁ、待ってよ」
 白樹は慌てて響子をお姫様抱っこして、智白を追いかけた――。