ーー6月16日。
天気は薄曇り。
今日は校外学習で軽井沢にやってきた。
木々の隙間から溢れる日差しは弱々しくて川の水位が少し上がっていた。
天気予報では夕方から小雨が降る予定。

昼は河辺付近の屋根付きのバーベキュー場で野菜や肉を順々に焼いていく。
怜くんがコンロの前でグループの分の肉を網に乗せていくと、私に言った。



「美那っち、肉の焼き加減どうする? レア、ミディアム、ウェルダンのどれにする?」

「ん〜、生がいいかなぁ」


「えっ、生? 肉を焼かないって事?」



怜くんはびっくりした目を向けてそう言った。
私はそこで人間界は生肉を食べない習慣だった事を思い出す。



「うそうそっ! 冗談に決まってるでしょ。(あぶないあぶない……)ぎっちぎちに焼いて!」

「あ……、あぁ。ぎっちぎちに?(しっかり焼いてって事かな?) あっ、そうだ! 今から漬けタレににんにくたっぷり入れてやるからな〜」


「えっ!! に、にんにく……?」

「にんにくで肉を漬け込むと美味いんだよね。にんにくチューブが向こうのテーブルにあったから今から持ってくるね!」



怜くんはトングを置いてから場所を離れようとすると、背後にいる滝原くんがすかさずひじを掴んだ。



「美那はにんにくが苦手だから要らない」

「あーそう……。はいはい、わかりました〜」



怜は美那の事なら何でも理解してるような言いっぷりに腹が立っていた。
先日夏都とケンカになった時に美那が大切な友達だと言われたが、嫌がらせ目的で近付いた事が心に溝を作っていた。

一方、夏都のお陰でにんにくから救われた美那はホッと胸を撫で下ろす。


バーベキューを終えて自由行動の時間になり、ほとんどの生徒がその場に残って河辺で遊んでいた。
私と澪もその一員に。
小石を川の深い場所へ投げて遊んだ後、2人で岩場に腰を下ろした。

すると、澪は川の奥の茂みの方に目を向けて少しモジモジとしながら言った。



「美那……さぁ、最近目がずっと滝原を追ってない?」

「そう? 気のせいじゃない? 意識した事ないよ」


「いよいよかなぁ〜って思ってたけどね。じゃあ、好きになったらいつでも相談してね! 応援するからさ」

「も〜〜っ、そんなんじゃないって! やめてよぉ。澪の勘違いだってぇ」と、言って澪の肩をバシバシと叩いた。



澪の言う通り、ここ数日間を思い返したら確かに意識してた。
ケンカをした時は滝原くん以外見えなくなってしまうくらい思い悩んでいたから。

でも、きっとそれは好きという意味じゃないと思う。