「はいお父さま。少し前に外国人街でスカウトしたんです。ですが、それがどうかされたんですか? それにお父さまがドレスに興味を持たれるなんて珍しいですわよね?」

「実は第二王女殿下がその着物ドレスの噂を聞きつけて、大変興味を持たれているんだよ。それでいくつか仕立てて欲しいということなんだ」

「第二王女殿下がですか?」

「頼めるかな?」
「えっと……はい」

 私はしぶしぶ頷いた。

「さすがマリア、話が分かるね。それにね、これは願ってもないチャンスなんだよ」
「チャンス……と言いますと?」

「もしこの話がうまくいって、外国文化の1つである着物ドレスが王家に認められたとしたら、どうなると思うかな?」

「えーと、どうなるんでしょうか……?」

「現在どうしても見下されがちな外国人とその文化を、見直す動きが出てくるはずだ」
「ああはい。そうなるかもしれませんね」

 おっとっと、お父さまがとても真面目な話をしているわ。
 ちゃんと聞かないと。

「それはね、この国にとってとても良い意味を持つことなんだ。全く違った新しい文化が入ってくることで、国内の文化や産業が大いに刺激を受けて発展するんだよ」

「それは、なんとなく分かります」

「これはその第一歩になるかもしれないんだ。それもこれもマリアがその着物ドレスを作る職人を見つけ出してくれたおかげだよ。私は本当に良い娘を持った。お前はどこに出しても恥ずかしくない自慢の娘だよ」

「……はい」

 まさかお父さまに向かって「着物を独り占めしたいから嫌だ」などとは言えず。

 私はせっかく結んだ独占契約を泣く泣く放棄し、着物はその制作技術とともに国中に流出してしまったのだった。



 ~~後日。

「マリア様、着物ドレスを着て行うヤパルナ風お茶会が、近々王家主催で開かれるそうですな」

 セバスチャンの問いかけに、

「ええ、そうみたいね……」
 私は完全に上の空で返事を返した。

 私の雇った着物職人は今では王家お抱えのデザイナーに抜擢され、王家のお墨付きを得て、着物の技術を王国内に大々的に広めていた。

 そして着物だけでなく、ヤパルナの独特の文化までもが王国内で流行り始めていたのだ。
 セバスチャンが言っているお茶会もその一環だった。

 そこには私も、着物を見出した「文化の伝道師」として、主賓で招かれていたんだけど――。

「マリア様がかの職人を見つけたことで、このような一大ムーブメントが巻き起こったのですから、外国人居留地の窮状をなんとか変えようと考えておられたお館様(マリアのお父さんのセレシア侯爵)も、さぞやお喜びでしょうな」

「ええ、そうね……」
 私は魂が抜け落ちたように力なく言葉を返す。

 だって……。
 だって、だって!

 ほんとは着物は私が全部、独り占めするはずだったのに。
 着物を独占して、私だけが称賛を一手に浴びるはずだったのに。

 途中まですごく上手くいってたのに……。
 なのに、どうしてこうなっちゃったの……ぐすん。