ほぼ息継ぎなしで一気に言った莉桜は、一度静かに目を閉じてから僕を見た。
 口元には薄い笑みが浮かんでいるのに、孕んでいる感情はどうみても哀しみだった。


「……本当は、これから先何年も、何回だって、そうやって移り変わっていく桜を見ていたい。見るたびに『この季節の桜を見るのは今年が最後かも』なんて気持ちになるのは、すごく嫌だ」


 莉桜の目元が、光を反射してきらりと輝いた。
 悲しいからというよりは、感情が昂って自然とにじんだ涙なのだろう。


「生きていたいよ。決まってるじゃん。いつ死んでもいいなんて、死ぬ恐怖を誤魔化すため自分に言い聞かせてただけの嘘だよ」



 彼女の大きな瞳から、とうとう雫が一滴こぼれ落ちた。


「私、これからもずっと生きていたい。佑馬と一緒に、生きていたいよ」


 ──これからもずっと生きていたい。
 莉桜の口から聞きたかった言葉をようやく言ってもらえた。

 僕が、彼女とのゲームに勝った瞬間だった。



 気が付けば、僕は莉桜のことを正面から抱きしめていた。莉桜は一瞬驚いたように体を硬直させたが、すぐに僕の背中に手を回してぎゅっと力を込めてきた。


「莉桜。……好きだ」


 ずっとしまい込んでいた言葉が、口をついて出る。


「もし病気のことが無かったら、君の世界はきっとずっと広かったんだろう。例えば僕のことなんて一年のうちの一週間も思い出す余裕がないぐらいに」


 隠していた思いが、満杯のコップに水を注いだときのようにこぼれていく。
 でも隠していた一方で、実はどうしようもなく伝えたくてたまらなかったのだと実感させられた。


「病気のおかげで君の世界は狭くて、僕のことを見てくれる余裕がある。それを心のどこかで喜んでしまう自分が嫌だった。そんな気持ちで素直に好きだなんて言えなかった」

「……じゃあ、何で今言ってくれたの?」

「……わからない」