なるほど、面白いことを考えたものだ。

 しかし効果のほどは怪しい気もする。得意げな顔の莉桜に聞く。


「実際に川の氾濫は無くなったのか?」

「え、それは知らない」

「その話だと、大勢の人が来て土手を踏み固めてくれるのは、桜が咲いている時期だけだろ? ほんの一、二週間人の足で固めた程度で、一年間の雨に耐えうるとは思えないけど」

「むむ……確かに……」


 莉桜は得意そうだった顔を、悔しそうにちょっと歪める。


 じゃあ災害対策で桜植えたのは効果なしだったのかな」


「いや……まあ、木の根が張ればそれだけで地面は割と強くなるだろうし、効果なしってこともないんじゃないか?」

「そっか! だよね!」


 僕の言葉に、莉桜は分かりやすく表情を明るくした。せっかく披露した雑学が否定されなくて安心したようだ。

 それから何か思うところがあったのか、しみじみとした調子で呟く。


「でも確かに、たったの一週間とかなんだよね。一年のうちで桜の木に世間の注目が集まるのって」

「いつ咲き始めるかって騒がれる期間を合わせたらもうちょっと長いぞ」

「あは、そうだね。でも一年を通して見たら本当に一瞬だよ。その時期が過ぎたら、また一年後まで、この木が桜だったってことさえ忘れ去られる」


 そうなのかもしれない。
 花が咲く時期になれば、たくさんの人が桜の木の前で足を止めるのに、花が散り、葉が青々と茂る頃には、誰一人立ち止まらない。
 ああ、そういえばこの木も桜だったな。僕も毎年色々な場所でそう思う。歩き慣れた道に植えられた木の種類なんて普段、気にしやしていないのだ。


「でも私は全部好きなんだよね。今みたいなつぼみの桜も、咲き始めた桜も、満開の桜も、散っていく桜も。それから葉桜も好きだし、緑の葉っぱだけになっても、紅葉しても、その葉っぱが枯れて散ってしまっても好き」