「今日は良い天気だねー」
「そうだな」
「まだ若干肌寒いけど、春はもう目の前って感じ」
「……」
今まで莉桜とはどんな風に会話をしてただろう。急にわからなくなってしまった。
ああそうだ。さっきの言葉であればきっと、「目の前っていうか、世間的に見たら三月も春だろ」とか何とか言い返したはずだ。ままならない。
僕たちの間に流れる微妙な空気は、莉桜も感じているのだろう。ちょっとうつむきながら歩く彼女は、いつもより口数が少ない。
「……明日から入院」
ぽつりと聞こえた莉桜の声に顔を上げる。
「明日?」
「手術までは一週間あるんだけどねー。体調とか色々調整があるからさ。だから佑馬とゆっくり話すには今日しかないと思ってさ」
のんびり歩いていた莉桜が、ぴたりと足を止めた。
「到着。本当はもう一週間ぐらい後に来たかったんだけど」
地図で見た限りでは、何の変哲もない川沿いの道。だけど実際に足を運ぶと、莉桜が行きたがっていた理由がわかった。
「この辺の木、そういえば全部桜か」
「そうなの!」
そこまで幅のない川の両側に植えられた桜の木。
開いた花こそ見当たらないものの、どの木もかなりつぼみが膨らんでいて、明日にでもこの中のいくつかは咲いていそうだ。
「ここもそうだけど、桜が川沿いに植えられてることって多いじゃん?」
「? まあ、確かに」
「どうしてなのか知ってる?」
知ったばかりの雑学を披露したくてたまらない、そんな子どものような表情で莉桜は言った。
残念ながら全く思いつかなかったので、僕はしぶしぶ首を横に振る。単に見栄えがするからとかそういう理由ではないのだろうか。
「実はね、川が氾濫しないようにするためなんだって」
「氾濫?」
「うん。江戸時代ぐらいの人がさ、桜の木を植えてたくさんの花見客来たら、その人達が土手を踏み固めてくれて、川が氾濫しなくなるぐらい強くなるんじゃないか……って考えたらしいよ」