僕らの高校では、卒業式からぴったり三週間が経った今日が修了式になっている。

 高校という新しい環境を共に乗り切ったクラスの顔ぶれは、次登校するときにはガラッと変ってしまうことになる。それでも所詮クラス替えなので、卒業と違って別れではない。
 そのためどちらかと言えば、同じメンバーで過ごす最後の時間を名残惜しそうにするというより、午前中が終われば帰れるという喜びで皆の顔は明るかった。

 そんな中で一人、僕は落ち着かない心持で窓際一番前の席に座る莉桜の後ろ姿を眺めていた。


『話したいことがあるんだけど』


 莉桜からそんなメッセージが届いたのは昨日のこと。
 学校で必要以上の会話も無ければ、帰ってから連絡を取り合うということも最近はほとんどなかったので、通知に入った莉桜の名前を思わず二度見した。


『明日、学校終わった後時間ない? 一緒に行きたい場所があって』


 ある。あるに決まっている。莉桜と過ごす時間のためなら、たとえ何か別の予定が入っていたって空ける。
 そんな気持ちを素直に返信しそうになって、慌てて入力した文字を消していく。そして代わりに、どこかそっけなく質問で返す。


『特に予定はないけど、おばさんに怒られるんじゃないのか?』


 それに対してはただ「大丈夫」とだけ返ってきた。
 追加で『一緒に行きたい場所』の位置図が送られてくる。地図上で見る限り、丸をつけて示してある場所は単なる川沿いの道だ。なぜそこに行きたがるのか皆目見当がつかなかった。


「佑馬」


 チャイムが鳴った直後。荷物をまとめていた僕に、莉桜はどこかバツが悪そうな笑みを浮かべながら近寄ってきた。放課後にこうして会話をするのが妙に懐かしい感じがする。


「もう行ける?」

「ああ」

「よしっ」


 昨日送られた地図で、これから行く場所への道順は一応頭に入っている。だけど莉桜が一歩前を歩こうとするので、それに付いていくことにした。