そんな考えても仕方のないことを、これまでいったい何回考えたことだろう。


「……兄貴は、莉桜の病気についてどれぐらい知ってる?」

「ん?」

「あんまり詳しく調べたことないんだよ。根本的な治療ができないとか、本当なのか?」


 実を言うと莉桜の病気について、莉桜が教えてくれたことしか知らない。
 いったいどういう症状があるのか。僕の見ていないところで彼女はどう苦しんでいるのか。それを僕が勝手に調べるのは、苦しむ姿を周りに見せず健気に振る舞う彼女に失礼な気がしていた。

 ……いや、それよりも単純に怖かったのだ。莉桜が話す情報だけであれば、大袈裟に言っているだけかもしれない、僕を怖がらせているだけなのかもしれない……と自分の中で逃げ道を作れる。本気で調べて知ってしまったら、その逃げ道が無くなってしまう。

 だけどもう、そんなことを言っていられる時期ではない。


「おれも特別詳しいわけじゃないぞ。ネットで調べた程度の知識しかない」


 弟をからかうモードから真剣な表情に切り替えた兄は、そう前置きした。


「心臓病の中でも先天性のやつな。莉桜ちゃんの場合、根本的な治療ができない……つまり治らないっていうのは本当らしい。心臓の弁に異常があって、たぶん莉桜ちゃんは手術で人工弁に置き換えてるはずだ」

「手術はそのためだったのか……」

「人工弁は劣化するし、身体の成長に伴って小さくもなる。だから一回手術してはい終わりというわけにもいかない」

「その手術は、回を重ねるほど成功率が下がる?」


 前に莉桜がさらりとそんなことを言っていたなと思い出しながら聞く。心臓の手術は繰り返すごとに危険になる。そして次が4回目なのだとも。
 兄は記憶を辿るように上を見ながら「そういう話もあったな」とうなずく。