実の兄の変態疑惑が否定されて安心した。それはもう心から。

 現在地元の難関大学に在籍している兄は、櫻田家四きょうだいの一番上。ちなみに僕とは違って人付き合いもきちんとしている。
 僕はきっと飲酒が可能な年齢になっても、兄のように連日飲みに誘ってくれる大勢の仲間に恵まれることはないだろう。というか飲み仲間なんて一人もいないかもしれない。


「はあー、だけど最近本当に会ってないなあ莉桜ちゃん。今年になってから一度も見てないレベルじゃね? なあ弟よ、JKになった莉桜ちゃん超美人なんだろ?」

「……まあ、周りの同級生と比べたら頭一つ飛びぬけて美人だな」

「ほー、そうかそうか」

「……なんだよ」


 兄がニマニマと笑みを浮かべてこちらを見るので、顔をしかめて問う。
 ちなみに酔っ払っているからこういう態度なのではなく、兄は素面でもこんなノリだ。というかそもそもザルだ。


「いや~、佑馬は本当に莉桜ちゃん好きだよなって」

「莉桜を美人だって言ったことについてなら、客観的事実を述べただけだ」

「恥ずかしがるな若人よ。昔七夕の短冊に『莉桜と両想いになれますように』って書いてたの知ってるぞ」

「若人って……兄貴とは五歳差だろ。あと記憶の改ざんはやめてくれ。一度たりともそんなの書いたことない」


 七夕の短冊や初詣のときなど、何か願い事をするときの内容はずっと昔から決まっている。莉桜の病気が治りますように。ただそれだけ。

 ──だけど、僕は神なんて信じていない。

 どれだけ真剣に祈ったところで莉桜の病気が治る気配はないし、そもそも神がいるのなら聞きたい。どうして莉桜を病気にした? どうして彼女を選んだ?
 才能に溢れ、人当たりが良く、容姿も美しい。そんな可能性しか感じられない女の子に、何故未来を与えない?

 どうしても誰かの未来を奪わなければならないのなら、莉桜ではない人間を……例えば僕を選べば良かったじゃないか。