「私、佑馬の書いた小説が欲しい」
「なんで……」
「佑馬の書く文章が好きだから」
「……ちゃんと読んだこと、ないだろ?」
書いている途中の原稿用紙をのぞきこまれるといったことは何度かあったが、莉桜は僕の書いた小説を最初から最後まできちんと読んだことはないはずだ。
絶対に読ませまいという強い意志があるわけではない。ただ何となく気恥ずかしいから、読みたいと言われてもこれまでのらりくらりとかわしてきた。
「うん。だから佑馬が書いてる小説の全体的なストーリーは知らない。ただ、使ってる比喩表現とか、キャラクターの軽いやりとりとか、そういうのが好き」
「それは光栄だな」
「私はどうやら比喩表現が苦手らしくてさー。佑馬みたいな綺麗な文が書けないんだ。キミはいつもすらすら書いてるからわからなかったけど、小説を書くのって難しいんだね。長編小説、これだけ頑張ってる割に全然書き進まないよ」
莉桜はムッと唇を結んで、不満げに息を吐く。
その言葉から察するに、部活ではそんな様子を見せてなかったが、小説自体はちゃんと書いていたらしい。僕はその事実に少しホッとした。
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管理栄養士の資格を持つ母が作った夕食のメニューは、野菜中心で色とりどりのメニューだった。
莉桜は歓声を上げながらパシャパシャと同じような写真を何枚も撮り(同席していた妹も引くぐらい撮っていた)、高級レストランの料理でも食べているかのようにいちいち目を輝かせながら味わって食べ、時間を掛けて完食した。母が大喜びだったのは言わずもがな。
その後母が莉桜を車で家まで送り届けに行き、それと入れ替わるようにして兄が帰宅した。
「あれ? 莉桜ちゃんもう帰っちゃったんか? 会いたかったのに」
部屋に僕しかいないことを知った兄は、アルコールの臭いをさせながら不平を言う。
「ちょうど帰ったところ。というか何で莉桜が来てたこと知ってるんだ?」
「そりゃ残り香でわかるってもんだろ」
「……気持ち悪」
「そのガチのトーンはグサッとくるぞ弟よ。まあ本当のこと言えば、朝から母さんが『今日は久しぶりに莉桜ちゃん呼ぶ』って張り切ってるの見たからさ」