「私はすごく楽しかったけど、佑馬はそのために風邪ひいたなんて嘘ついて、一生に何度もない修学旅行、小中で二回も欠席してさ。馬鹿だよねぇ」

「風邪ひいたのは嘘じゃない。イベント事の前に体調を崩しやすい損な体質なんだ」


 僕がそう言って肩をすくめれば、莉桜は「はいはい」と全く信じていなさそうに返事する。


「でもさ、来年の修学旅行こそはちゃんと行ってきてよ。高校がもう最後のチャンスでしょ?」

「体調を崩すのは別に僕の意志じゃない」

「またそういうこと言う」

「それに、僕みたいな友達の少ない根暗にとっては、そういう学校行事は大して楽しいものでもないしな。莉桜と二人の疑似修学旅行の方がずっと楽しかったよ」


 それは紛れもなく本心だった。
 どれだけ楽しい行事だろうが、莉桜がいないのに心から楽しめるはずがない。

 彼女は、僕の中で自分がどれほど大きな存在なのかわかっているのだろうか。


「旅行は別に好きじゃないしな。まあ──もし君と一緒なら、どこへ行ったって楽しいんだろうけど」

「っ、佑馬、なかなかにクサいセリフを言いよるな」


 莉桜はふいと目を逸らして、小さく返す。


「……嬉しい、って思っちゃう私も私なんだけど」


 莉桜の頬が、ほんのりと、ほんとうにわずかに赤く染まった。

 ……触れたい。そう反射的に思った。
 指先がほんの少しでも触れたりしたら、そのまま崩れてしまいそうな気がする。それでも──。

 思わず伸ばしてしまいそうになった手を押さえ、僕は天井を仰いだ。


「『これからもずっと生きていたい』って、まだ言う気にならないか?」


 いったいどうしたら、彼女をここに留めておけるのだろう。


「ああ、例のゲームね。あは、やだよ負ける気ないもん。叶えて欲しい願いも決めたしね」

「え?」


 初耳だった。


「私が死んだら棺桶にそれ、入れてほしいんだ」


 それ、と言いながら莉桜が指さしたのは、先ほど僕が隠すように片付けた原稿用紙。