ベッドに上がって養護教諭が席を外したと同時に逸る気持ちを抑えながらカーテンの向こうに問いかけた。



「セイくん、ここで会うのは久しぶりだね。まだ私の声を覚えてる？」

「うん、覚えてる。今日は大雪だね」


「あっ……。あ、うん」



こんな些細な会話さえ、胸がドキンと弾んだ。

やっぱりセイくんに恋している。

クラスも名前も顔も知らない。
他人から見たらバカバカしいと思うかもしれないけど、保健室(ここ)で共に過ごした時間が私の全て。

例え姿が見えなくても、私の心があなたを求めている。



今から『会いたかったよ』って言ったら、少しは何かが変わるかな。
いきなりそう伝えても、芸能人は綺麗な人が多いから、カーテン越しの顔もわからない一般人の私になんて興味が湧かないかな。

彼は1ヶ月ぶりに現れたのに、私はあと少しの勇気がないから臆病になった。



「もう10センチ近く雪が積もっているから、ひょっとしたらあんたが会いたい人に会えるんじゃない？」

「どうかな。あれからもう6年も経ってるし、彼と待ち合わせ場所とか細かい事を決めなかったから、多分会えないよ」



既に気持ちがセイくんへシフトしているから、些細な一言で少し卑屈になった。
今は皆川くんが現れてくれるよりも、カーテン越しにセイくんが現れた事の方が、よっぽど嬉しい。


彼の声を全身で聞き取ったら、思わず感無量に。
閉ざされたカーテン内で想いを溢れさせながら、ポケットから出したハンカチを目に押し当てて、彼にバレないように声を押し殺した。



「ふーん。もう会えないなんて寂しいな」



隣からポツリと小さく呟く声が届く。

皆川くんの話をした当初から気持ちは変わったのに、彼は私の気持ちを知らないから良かれと思ってそう言ってる。