「いまから飴を渡すから、そっち側のカーテン開けていい？」

「それはダメ。何があってもカーテンだけは絶対開けないで」


「どうして開けちゃダメなの？」

「今はプライベートの時間だから」



彼はそう言って、カーテンを開く事を頑なに拒んだ。

残念だけど仕方ない。
芸能人だから、仕事以外では人と顔を合わせたくないのかもしれない。



「じゃあ、どうやって渡せばいいの？」

「今からカーテンの下に右手だけ伸ばすから、俺の手の平に飴を乗せて」



カーテンも開けずに下から飴をくれという彼の偏屈な態度が少し可笑しく思った。
自分側のカーテンを少し開くと、隣のカーテン下から手が伸びていて、手の平が受け皿になっている。

私は指示通り飴を手の平に乗せた。



「はい、どうぞ」

「サンキュー」



飴が彼の手元に渡ると、カーテンの向こう側に手がスッと引っ込んだ。

指が細くて長くてキレイな手。
でも、なんか受け取り方に可愛げがない。
同じ学校の生徒とはいえ、素性を知られたくないからカーテンは開けたくなかったんだね。
まぁ、仕方ない。



「……この星型の飴」



と、彼は少し掠れるようにポツリと呟く。
私はすかさず返答をした。



「これは歌が上手くなる特別な飴なんだ」

「えっ……。歌が上手くなる飴？」


「うん、昔好きな人にそう言われてこの星型の飴を貰ったの。もう歌は辞めたんだけど、この飴は勇気が出る飴として肌身離さず持ってるんだ」

「ふーん、あんた歌をやってたの？」


「うん。でも、未だにこの飴を持ち続けてるには理由があるんだ」

「へぇ……。その話、もっと詳しく聞かせてもらってもいい？」



そう言って話に興味を湧かせた彼からは、ビリっと飴袋を開封する音が響いた。