黒いリボンのついたパフスリーブのトップスに、ふんわりとしたシルエットのエメラルドグリーンのスカート。足元はヒール低めのストラップシューズ。
高校生というおしゃれに興味が出てくる年頃になったとはいえ、まだコテは持っていない。
ので、髪はお母さんのカーラーを借りて少しだけ巻いて、ヘアアクセをつけた。
「ど、どうかな……?」
「いいじゃん!」
――リビングでスマホを見ていた茜くんの前に、おずおずと出ていくと。
すぐに顔を上げてこちらを見た彼は、ぱっと笑ってそう言ってくれた。その笑顔がやっぱり蒼とそっくりで、なんだか恥ずかしくて俯いてしまう。
そう、今日は土曜日。
茜くんとのデートーーの、日である。
「いつも、可愛い服とかあまり着ないから、なんか恥ずかしいけど……。」
「えー、もったいねーな、もっとおしゃれすりゃいいのに、花の女子高生なんだからさ。あ、髪巻いてるじゃん。爪もマニキュア塗ってる?」
「あ、お母さんの借りて……。変じゃないかな?」
「変じゃない、似合ってる。」
わ、わ。
ごくごく自然な動作で髪に触れてくる茜くんにどきどきして、慌ててしまう。
「あ、ありがとう……。茜くんも似合ってる。」
「お、ありがと!」
茜くんも、いつの間にか調達したらしい私服を着ている。シンプルなシャツにスラックスだが、非常に似合っている。
日中はやることがないと言ってたので、持ってきていた財布で買い物をしておいたのかもしれない。
……それにしても。
髪に触れる仕草といい、女子をほめるときの気安さといい、手馴れている感じがして、なんだかいたたまれない。茜くん、モテそうだもんなあ。そもそも顔が格好いいんだから、モテないはずもないか。
すると、茜くんが不意に、「そうだ!」と、何か思い出したように立ち上がった。そして、ちょっと待ってて、と言うと、そのまま二階へと姿を消す。
そして、ややあってから戻ってきた茜くんの手にあったのは――リップ?
「ひな。目、つぶって?」
「えっ?」
「ほら早く。」
「は、はい……。」
畳みかけられるように言われ、私は反射的に目を閉じた。
な、なに? どういうこと?
ドキドキしながら目を閉じたままでいると、不意に、唇に柔らかいような、ぬめるような感覚。
「わ⁉」
びっくりして目を開けると、茜くんがリップを手にしてこちらを見ていた。
そして言う――「うん。……やっぱ似合うな。」
「似合う……?」
「そう。ほら、鏡見て。」
スマホでミラーを出した茜くんが、画面に私を映す。
画面の中の私の唇は、コーラルピンクに色づいていた。――茜くんが塗ってくれたのか。
「かわいい。」
「……っ!」
ストレートにほめられて、一気に真っ赤になる。……妹みたいな存在に対しての「可愛い」だってことはわかってるけど、心臓に悪すぎる……!
「あ、あの、そのリップ、茜くんのなのっ?」
照れを誤魔化すみたいに声を上げる。「茜くん、メイクとかしたりするんだ!? い、イマドキって感じだね……!」
しかし、茜くんは意外そうに眉を上げるだけで、軽く首をひねった。
「ん? いや俺はしねーけど。」
「え、じゃあどうしてリップなんて……?」
家出にまでわざわざ持ってきたのなら、よほど大切なものか、あるいは普段から肌身離さず持っているものか、どちらかのはずだ。
茜くんはちょっとだけ目を細めると「んー、」とこぼし、どこか困ったように笑った。
「――ま、そんなこと別になんでもいいだろ。ほら、早くデート行こうぜ、ひな。」
「え? あ、うん……。」
……ごまかされた?
それに、さっきの、彼の表情。……笑ってはいたけれど、なんだか寂しそうだった。
茜くんはなんで、あんな顔をしたんだろうか。
高校生というおしゃれに興味が出てくる年頃になったとはいえ、まだコテは持っていない。
ので、髪はお母さんのカーラーを借りて少しだけ巻いて、ヘアアクセをつけた。
「ど、どうかな……?」
「いいじゃん!」
――リビングでスマホを見ていた茜くんの前に、おずおずと出ていくと。
すぐに顔を上げてこちらを見た彼は、ぱっと笑ってそう言ってくれた。その笑顔がやっぱり蒼とそっくりで、なんだか恥ずかしくて俯いてしまう。
そう、今日は土曜日。
茜くんとのデートーーの、日である。
「いつも、可愛い服とかあまり着ないから、なんか恥ずかしいけど……。」
「えー、もったいねーな、もっとおしゃれすりゃいいのに、花の女子高生なんだからさ。あ、髪巻いてるじゃん。爪もマニキュア塗ってる?」
「あ、お母さんの借りて……。変じゃないかな?」
「変じゃない、似合ってる。」
わ、わ。
ごくごく自然な動作で髪に触れてくる茜くんにどきどきして、慌ててしまう。
「あ、ありがとう……。茜くんも似合ってる。」
「お、ありがと!」
茜くんも、いつの間にか調達したらしい私服を着ている。シンプルなシャツにスラックスだが、非常に似合っている。
日中はやることがないと言ってたので、持ってきていた財布で買い物をしておいたのかもしれない。
……それにしても。
髪に触れる仕草といい、女子をほめるときの気安さといい、手馴れている感じがして、なんだかいたたまれない。茜くん、モテそうだもんなあ。そもそも顔が格好いいんだから、モテないはずもないか。
すると、茜くんが不意に、「そうだ!」と、何か思い出したように立ち上がった。そして、ちょっと待ってて、と言うと、そのまま二階へと姿を消す。
そして、ややあってから戻ってきた茜くんの手にあったのは――リップ?
「ひな。目、つぶって?」
「えっ?」
「ほら早く。」
「は、はい……。」
畳みかけられるように言われ、私は反射的に目を閉じた。
な、なに? どういうこと?
ドキドキしながら目を閉じたままでいると、不意に、唇に柔らかいような、ぬめるような感覚。
「わ⁉」
びっくりして目を開けると、茜くんがリップを手にしてこちらを見ていた。
そして言う――「うん。……やっぱ似合うな。」
「似合う……?」
「そう。ほら、鏡見て。」
スマホでミラーを出した茜くんが、画面に私を映す。
画面の中の私の唇は、コーラルピンクに色づいていた。――茜くんが塗ってくれたのか。
「かわいい。」
「……っ!」
ストレートにほめられて、一気に真っ赤になる。……妹みたいな存在に対しての「可愛い」だってことはわかってるけど、心臓に悪すぎる……!
「あ、あの、そのリップ、茜くんのなのっ?」
照れを誤魔化すみたいに声を上げる。「茜くん、メイクとかしたりするんだ!? い、イマドキって感じだね……!」
しかし、茜くんは意外そうに眉を上げるだけで、軽く首をひねった。
「ん? いや俺はしねーけど。」
「え、じゃあどうしてリップなんて……?」
家出にまでわざわざ持ってきたのなら、よほど大切なものか、あるいは普段から肌身離さず持っているものか、どちらかのはずだ。
茜くんはちょっとだけ目を細めると「んー、」とこぼし、どこか困ったように笑った。
「――ま、そんなこと別になんでもいいだろ。ほら、早くデート行こうぜ、ひな。」
「え? あ、うん……。」
……ごまかされた?
それに、さっきの、彼の表情。……笑ってはいたけれど、なんだか寂しそうだった。
茜くんはなんで、あんな顔をしたんだろうか。