「それってまさか……ひなの手紙、クラスメイトの見せ物にしたってこと!?」

精いっぱいぼかして言ってみたけれど、理子は一瞬で沸騰した。顔を真っ赤にして、身を乗り出す。

「み、見せ物っていうか……。」
「何それ信じらんない! サイテー! ひな、そんなやつナシにして正解だよ!」
「り、理子、」
「なによ、アイツがそんなやつだなんて知らなかった! フツーに明るくていいやつかなって思ってたのに、最悪!」

まくしたてる理子は、心の底から怒ってるみたいだった。
それを頼もしく思うと同時に、苦しくもなる。――蒼を最低だって言われるのが、つらい。理子が私を思って言ってくれていることがわかっているのに、つらい、と思ってしまう自分が嫌いだ、と思った。
昨日から思っていたことだが、改めて自覚する。

……あんな風に言われて、やっぱり私、まだ蒼のこと好きなんだ。


『まてよっ、ひな!』


――ふと、昨日、必死な声で私を呼び止める蒼の声が、脳裏によみがえった。
もしかして、あれにも何か、理由があったのかも、なんて。

(……あーあ、バカみたい。)

こんなの、フラれたことを認めたくなくて、自分に言い訳してるだけだ。みっともない。

「ねえひな、あたしが文句言ってきてあげよっか? 幸いあたしはあいつと同じクラスじゃないし、気まずくなりすぎることもないし……!」
「い、いいよ理子、私大丈夫だから。ありがとう。……それに、」

――これ以上、みじめになりたくない。
蒼のことを好きなのは本当だったんだ。……ううん、今もまだ好きなんだ。だから、何も言えない。誰に何も言ってほしくない。
ぎゅ、と唇を噛みしめて、なんとか笑った。「――ありがと、理子。」

「でも、ひな……。」
「じゃあ、私そろそろ教室行くねっ!」

まだ何か言いたげな理子の話を遮るように、教室の中に飛び込んだ。

(蒼はまだ来てない、よね?)

辺りを見渡して、蒼の姿が見えなかったことに、ほっと息をつく。
そして自分の席につこうとしたところで、声を掛けられた。ななめ前の席の佐古くんに。

――佐古直樹くんは、小学校時代からの蒼の友達だ。私は小学校・中学校と、彼と同じクラスになったことがなかったから、たいして接点はなかったけれども――高校に進学した今も同じグループの友人同士として仲良くしているのをよく見かける。

その佐古くんの爽やか系のイケメンだと言われる顔が、困ったような表情になっていた。

「あの、宮野さん。昨日のこと……、」
「あ……。」

そうか、佐古くん、昨日あの場にいたのか。そういえば、声がしてた。
みじめさと恥ずかしさで、カッと頬が熱くなるのがわかった。
どうして話題になんか出すんだろう。あの場にいたのなら、あの時たまらなくなって逃げ出した私のことも、見ていたはずなのに。

「わ、私っ……、」
「ごめん、あんなこと、ちゃんと止めさせるべきだった。僕は、」
「大丈夫だから、もういいから。蒼にも……怒ってない。迷惑をかけた私が悪いの。放っておいてくれていいから、」
「そんなことできない!」

逃げるように顔をそむけたところで、佐古くんは少しだけ強い口調で言った。

「蒼のやったこと、許せる訳ないよな。でも蒼はたぶん、したくてあんなことしたんじゃないんだ。蒼はあの場にいた僕に気を使って……。」
「え……? さ、佐古くん?」

佐古くんが、私の手を取る。両手で包むように。
茜くんほど骨張ってはいない。でも、きちんと男の子の手の感触がして、どきどきする。

「蒼は、僕が宮野さんのことを、」


「……ふーん。お前らって仲良かったんだ?」