――ようやく授業が終了し、短いホームルームも終える。
私は午後の授業で貯めた眠気を発散するように、大きく伸びをした。そして、近くの席の親友に声をかける。
「じゃあ理子、また明日!」
「はーい、また明日ね!」
カバンをつかみ、教室を出て、顔を出すのはとなりのクラス。
3年B組、とあるクラスの扉を開けて、中にいる彼に声を掛けた。
「蒼、帰ろ〜!」
「おー、今行く。」
……あれから二年。
高校三年生になった私たちはいまだ、付き合っていない。
*
「――ひな!」
あの時、私は歩道橋から転がり落ちることはなかった。
その場に来ていた蒼が、バランスを崩していく私の腕を、ギリギリ掴んだからだ。
「よかった、間に合った……!」
蒼はそう言って、私を抱きしめてくれた。
私も、一瞬でも遅れたら死んでいた恐怖もあいまって、蒼に抱きついた。そしてそのままそこで少しだけ泣いた。
久保さんはほっとしたような顔をしていたけど、直樹くんはそんな私たちを白けたような目で見ていた。
蒼はこっちに駆けてくる間に、私と彼の口論の、だいたいの内容を耳にしていたらしい。直樹くんを睨むと……それでもどこか辛そうに言った。
「……佐古。オレはお前を友達だと思ってたけど、お前にとってはそうじゃなかったんだな。」
それに、彼はフンと鼻を鳴らして応えた。
「――そうだよ。僕はお前のことがずっと大嫌いだったんだ。……お前のその、すぐに僕を責めたりののしったりしない、『良い子』なとこも嫌いだよ。」
二人でせいぜいお幸せに。
手を振り払って危ない目に遭わせたのはごめんね。
……そう言って、とっととその場を去っていった。久保さんも、私に一言「ごめん」とだけ言って、その場を立ち去った。
二人で残されると、蒼は全てを話してくれた。
「あの時、手紙を回し読みなんかしてごめん。今さら許してもらえるとは思ってないけど……、お前の気持ちを気持ち悪いなんて思ったことは、本当に一回もないから。これだけは信じてほしい。」
蒼が言うには、手紙の件は、直樹くんの言う通り、友達への誠意と自分の想いに板挟みになって、パニックになってしまったためだったらしい。彼にはずっと牽制をされていて、彼のことを、友人のことを裏切れないと思ってしまったのだと。
本当はもっと怒ってよかったのかもしれないけど(あとから事の顛末を聞いた理子はもっとキレろと憤慨していた)、私は蒼が『本当は嬉しかった』と、そう言ってくれただけで満足だった。……直樹くんの本性に気づかずに、自分の気持ちを捨てかけたのは私も同じだったから。
私は午後の授業で貯めた眠気を発散するように、大きく伸びをした。そして、近くの席の親友に声をかける。
「じゃあ理子、また明日!」
「はーい、また明日ね!」
カバンをつかみ、教室を出て、顔を出すのはとなりのクラス。
3年B組、とあるクラスの扉を開けて、中にいる彼に声を掛けた。
「蒼、帰ろ〜!」
「おー、今行く。」
……あれから二年。
高校三年生になった私たちはいまだ、付き合っていない。
*
「――ひな!」
あの時、私は歩道橋から転がり落ちることはなかった。
その場に来ていた蒼が、バランスを崩していく私の腕を、ギリギリ掴んだからだ。
「よかった、間に合った……!」
蒼はそう言って、私を抱きしめてくれた。
私も、一瞬でも遅れたら死んでいた恐怖もあいまって、蒼に抱きついた。そしてそのままそこで少しだけ泣いた。
久保さんはほっとしたような顔をしていたけど、直樹くんはそんな私たちを白けたような目で見ていた。
蒼はこっちに駆けてくる間に、私と彼の口論の、だいたいの内容を耳にしていたらしい。直樹くんを睨むと……それでもどこか辛そうに言った。
「……佐古。オレはお前を友達だと思ってたけど、お前にとってはそうじゃなかったんだな。」
それに、彼はフンと鼻を鳴らして応えた。
「――そうだよ。僕はお前のことがずっと大嫌いだったんだ。……お前のその、すぐに僕を責めたりののしったりしない、『良い子』なとこも嫌いだよ。」
二人でせいぜいお幸せに。
手を振り払って危ない目に遭わせたのはごめんね。
……そう言って、とっととその場を去っていった。久保さんも、私に一言「ごめん」とだけ言って、その場を立ち去った。
二人で残されると、蒼は全てを話してくれた。
「あの時、手紙を回し読みなんかしてごめん。今さら許してもらえるとは思ってないけど……、お前の気持ちを気持ち悪いなんて思ったことは、本当に一回もないから。これだけは信じてほしい。」
蒼が言うには、手紙の件は、直樹くんの言う通り、友達への誠意と自分の想いに板挟みになって、パニックになってしまったためだったらしい。彼にはずっと牽制をされていて、彼のことを、友人のことを裏切れないと思ってしまったのだと。
本当はもっと怒ってよかったのかもしれないけど(あとから事の顛末を聞いた理子はもっとキレろと憤慨していた)、私は蒼が『本当は嬉しかった』と、そう言ってくれただけで満足だった。……直樹くんの本性に気づかずに、自分の気持ちを捨てかけたのは私も同じだったから。