「はあ? 誰だよいきなり……って、『茜』⁉」
かつてのオレは、オレを見るなり険しい顔になった。当然だろう。『茜』が茜でないとはじめに気づいたのは蒼なんだから。
けど、議論している暇はない。
オレには時間がないんだ。早くしないと。
「聞け。いいか、ひなを助けろ。このままじゃあいつの命が危ない!」
「は、意味わかんねーよ、いきなり何言ってんだよお前、」
「……オレには昔からずっと好きなやつがいた。内気だけど笑顔が可愛いやつだ。でもオレのせいで傷つけて……オレはあいつに謝れないまま、あいつを亡くした。」
「っ、だから! さっきから何の話を、」
「――友達に気を使ってひよって、あいつのくれた手紙を無下にして、傷つけて、でもその友達とくっつけば幸せなはずだからって自分に言い訳して! 何も言えないまま、誤解を解けないまま、あいつは死んだ!」
蒼が、顔色を変えた。
はくり、と、息を呑んだのがわかった。
しかしそれを気にしている時間はない。オレは持ってきたノートを、過去のオレに押し付けるようにして渡した。
「全てはこのノートに書いてある。多分夕方だ、『今日の』夕方にあの事件は起きた。」
なあ頼む。もう二度と後悔したくないんだ。
あいつのいない世界で、これからもずっと普通に生きていく自分を想像するだけで吐きそうになった。
あいつがいなくても世界は回る。日常も回る。それでも、オレはあいつに生きていてほしい……いや、一緒に生きていきたい。もう一度あいつの声が聞きたい。笑顔が見たい。
――だから、このノートはそう願い続けたオレの軌跡で、
このタイムスリップは、その願いを叶えるために世界が与えてくれた、
「たった一度の、奇跡なんだ……!」
視界がいよいよ白くなる。目の前にいる蒼の顔がよく見えない。立っていられなくて、その場に座り込む。
「お、おい、大丈夫かよ?」
「大丈夫だ、気にしなくていい。」
「なあ、お前、お前ってまさか――」
「っ、行け!」
怒鳴りつける。
もうお前しかいないんだ。お前ならまだ間に合う。
そうだ、お前は間に合わなかったオレとは違う。お前なら――!
蒼が走り出す。足音が遠くなる。
それにホッとしたのと同時、意識が一気に遠のいた。
(……頼む、蒼……。)
その場に倒れ込み、そして、
――強い風が、吹く。