ピピピピ、ピピピピ。
鳴り続ける目覚まし時計を止めて、私は目をこすりながら起き上がった。
低血圧というわけではないが、私は朝に弱いほうだ。
いつものように半分眠ったまま着替えて、洗面所で顔を洗って、そしてリビングに行く。
「おかあさーん、おはよ~……。」
「おはよ、ひな。まあオレおばさんじゃないけど。」
「んえ……あッッ‼ 茜くん⁉」
「うん。はは、ひな、寝ぐせついてる。」
おかしそうに笑ったのは、白いTシャツに黒いスウェットの茜くん。
そ、そ、そうだった! 昨日から茜くんが家にいたんだった!
寝ぼけまなこでリビングに来て、お母さ~ん、なんて言って、寝ぐせまで見らてしまった。恥ずかしいにもほどがある。
顔から火が出そうになる私に、茜くんが「はははっ」と笑い声を上げた。
「そんな縮こまんなくたっていいじゃん。かわいーよ、寝ぐせ。」
「うう、からかわないでよ茜くん……。」
「からかってないって。」
くすくす笑う茜くんは、「パン焼けてるぞ。」と言ってキッチンに行く。コーヒーの香りもするので、どうやら、飲み物も淹れてくれたらしい。――立つ瀬がない。
私は肩を落としながら、洗面所に戻る。
そして茜くんの作った朝ごはんを食べて、家を出る。ベーコンエッグの乗ったトースト、すごくおいしかった……。茜くん、なんでもできるんだなあ。いや、料理上手なのは昨晩のハンバーグでわかっていたことだけれども。
家出中の茜くんは、学校もサボってしまうらしい。出席日数はまだセーフ! とニヤッと笑う茜くんは、ちょっとだけワルに見えた。茜くんは頭もよさそうだし、少しくらいなら問題ないのだろう。
「おはようひな!」
「あ、おはよ、理子。」
昇降口で会った、小学校からの友人の理子とともに、クラスへ向かう。
階段を上りながら、理子はどこかニマニマしながら聞いてくる。
「なーんかひな、機嫌良くない?」
「えっ、そう?」
「もしかして〜、上手くいったの⁉」
コ、ク、ハ、ク!
声に出さないように、唇の形だけでそう言った理子に――一瞬で血の気が引いた。
……そうだ。私、蒼に手紙を書いて、渡して、それで……。
「……っ!」
「えっ、あれ? ひな?」
茜くんが来て、なぐさめてくれて、現実から目を背けていた。
そうだ。私蒼に振られたんだ。……昔からずっと好きだった、蒼に。
私の様子を見て、理子が『しまった』という表情になった。
理子は昔からずっと、私の恋愛相談を聞いてくれていた。私の顔色の変化なんて、すぐにわかってしまうのだ。
「ひな……、もしかして、ダメだったの? お断りメッセとか来ちゃった?」
告白の方法が手紙だったので、直接断られることはない。けれど、蒼は私の連絡先を知ってるので、返事はできる。
すぐに断られたなら、電話かメールかメッセージ。理子はそう思ったんだろうけど……。
「……違くて、」
ごまかせない。理子は大切な友だちだし、何度も相談に乗ってもらったし。
なんでもないよ、とは言えなかった。
「えっとね、たまたま、教室に戻ったら聞いちゃって……。」
「……何を?」
笑え。
心配をかけないように、なんでもないことみたいに言え。
「蒼が、友だちに、『告白は断る』って言ってるのを、かな。」
鳴り続ける目覚まし時計を止めて、私は目をこすりながら起き上がった。
低血圧というわけではないが、私は朝に弱いほうだ。
いつものように半分眠ったまま着替えて、洗面所で顔を洗って、そしてリビングに行く。
「おかあさーん、おはよ~……。」
「おはよ、ひな。まあオレおばさんじゃないけど。」
「んえ……あッッ‼ 茜くん⁉」
「うん。はは、ひな、寝ぐせついてる。」
おかしそうに笑ったのは、白いTシャツに黒いスウェットの茜くん。
そ、そ、そうだった! 昨日から茜くんが家にいたんだった!
寝ぼけまなこでリビングに来て、お母さ~ん、なんて言って、寝ぐせまで見らてしまった。恥ずかしいにもほどがある。
顔から火が出そうになる私に、茜くんが「はははっ」と笑い声を上げた。
「そんな縮こまんなくたっていいじゃん。かわいーよ、寝ぐせ。」
「うう、からかわないでよ茜くん……。」
「からかってないって。」
くすくす笑う茜くんは、「パン焼けてるぞ。」と言ってキッチンに行く。コーヒーの香りもするので、どうやら、飲み物も淹れてくれたらしい。――立つ瀬がない。
私は肩を落としながら、洗面所に戻る。
そして茜くんの作った朝ごはんを食べて、家を出る。ベーコンエッグの乗ったトースト、すごくおいしかった……。茜くん、なんでもできるんだなあ。いや、料理上手なのは昨晩のハンバーグでわかっていたことだけれども。
家出中の茜くんは、学校もサボってしまうらしい。出席日数はまだセーフ! とニヤッと笑う茜くんは、ちょっとだけワルに見えた。茜くんは頭もよさそうだし、少しくらいなら問題ないのだろう。
「おはようひな!」
「あ、おはよ、理子。」
昇降口で会った、小学校からの友人の理子とともに、クラスへ向かう。
階段を上りながら、理子はどこかニマニマしながら聞いてくる。
「なーんかひな、機嫌良くない?」
「えっ、そう?」
「もしかして〜、上手くいったの⁉」
コ、ク、ハ、ク!
声に出さないように、唇の形だけでそう言った理子に――一瞬で血の気が引いた。
……そうだ。私、蒼に手紙を書いて、渡して、それで……。
「……っ!」
「えっ、あれ? ひな?」
茜くんが来て、なぐさめてくれて、現実から目を背けていた。
そうだ。私蒼に振られたんだ。……昔からずっと好きだった、蒼に。
私の様子を見て、理子が『しまった』という表情になった。
理子は昔からずっと、私の恋愛相談を聞いてくれていた。私の顔色の変化なんて、すぐにわかってしまうのだ。
「ひな……、もしかして、ダメだったの? お断りメッセとか来ちゃった?」
告白の方法が手紙だったので、直接断られることはない。けれど、蒼は私の連絡先を知ってるので、返事はできる。
すぐに断られたなら、電話かメールかメッセージ。理子はそう思ったんだろうけど……。
「……違くて、」
ごまかせない。理子は大切な友だちだし、何度も相談に乗ってもらったし。
なんでもないよ、とは言えなかった。
「えっとね、たまたま、教室に戻ったら聞いちゃって……。」
「……何を?」
笑え。
心配をかけないように、なんでもないことみたいに言え。
「蒼が、友だちに、『告白は断る』って言ってるのを、かな。」