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――どうやらタイムスリップをしたらしい。
ひなに声をかけておきながら、その実これはなんの冗談なんだと思っていたが、そこは間違いなく三年前だったし、なりゆきでひなの家に居候することになったし、ましてや願望から来る夢でもなかった。そしてオレはちゃっかり、そっくり従兄の『篠崎茜』を名乗ってしまった。変なところ要領いいから、オレ。
いつだったかひなに『料理を教えてほしい』と言ったことをふと思い出して、気まぐれに料理を覚えてみた甲斐があった。
それから中学の頃には言えなかった『可愛い』をいっぱい言って、ひなは律儀に照れてみせた。蒼にそっくりだから、といって、顔を赤くするんだ。……ああ、ほんと可愛い。
なんで昔のオレはとっとと告白して彼女にしなかったんだろ。佐古に遠慮して、ほんとバカみたいだ。……いや、オレがただ日和ってただけか。
――だが、なんにせよこれはチャンスだ。無論、ひなを助けるための。

何も難しいことはない。彼女を死なせないためにはエックスデーの一日、家から出さなければいい。その日が来るまで、大人しくしていればいい。
……そう思ってたけど、やっぱりビビリの昔のオレにはむかついたし、ろくに謝ることも弁解もできずに嫉妬だけは一人前であることに腹が立ってケンカを売ってしまった。佐古とひなが仲良くするのも、今となっては受け入れられなかった。

……それに、今になって考えてみると、佐古の行動にはいろいろおかしいところが多かった。
ひなのことを好きだという割には、佐古は彼女の立場を考えていない。佐古は頭がいいのに、気を使うべきところを疎かにしているように思えた。なんだか怪しくて、強く牽制をした。


……そうしたら、自分が『篠崎茜』でないことがバレた。
まさか、茜が死んでいたなんて。そんなこと、全然知らなかった。


いやそれよりも、まずい。ひなが出かけてしまった。止められなかった。
このままじゃまた、あいつを死なせてしまう! 
――ぶわり。
そう思った瞬間、屋内であるはずなのにどこからか強い風が吹いた。オレがこの時代に来た時に浴びたような、そんな風。
……そして、得体の知れない『何か』に、身体を引っ張られる感覚。
意識に、霞がかかっていく。急激に体力が奪われる。

(まさか、戻れ……ってことか⁉ 元の時代に⁉)

さっ、と血の気が引いた。
ふざけるな。こんなところで、こんなタイミングで、元の時代に戻ってたまるか。オレはまだ何もなせていない。あいつを救えていない。

――だけど、このままひなや佐古を探し回れるような余裕は多分ない。

なら。
オレは弾かれるように家を出た。少し走るだけで息が上がり、目の前が真っ白になりかけたが、それでも足を止めない。
そして、辿りついたのは――『我が家』。

「蒼! ……篠崎蒼! いるか!」