――そして、ついにその日がやってきた。
その日オレは『走り去った女』を探すために、探偵に依頼をしようと考え、出かけていた。
依頼料が必要だと思ったので、財布には多めの現金を。依頼内容を説明するのに必要だと思ったので、スクラップノートを。そして、あいつに似合いそうだと思ってつい買ってしまった、リップを。……それぞれカバンに突っ込んで、家を出た。

(犯人を見つけて、)

もし、見つかったとして。

(オレは……どうしたいんだろう?)

無意味なんじゃないか、何もかも。
ぼんやりとそんなことを考えていると、いつの間にかあいつが落ちて死んだ歩道橋の階段に差し掛かっていた。

(あいつ、ここから落ちたんだよな……。)

高いところが苦手なわけじゃなかったはずだけど、怖かっただろうな。
――そして、そう考えたその瞬間だった。
ぐわりと、強い風が吹いた。
そして、風にあおられて、身体が傾いた。バランスを崩し、下に向かって、落ちて、

(あれ、オレ……死ぬ?)

そう思って――しかし。
次の瞬間には、オレはなぜか公園にいた。昔、あいつと遊んだ児童公園に、馬鹿みたいに突っ立っていた。
そうして見つけたのだ。
――ベンチで一人で泣いている、記憶のままの彼女を。
なあ、泣かないで。オレがそばにいるから。今度こそ死なせたりしないから。


「そんなにこすると、目ェ赤くなるよ。」


……なあ、ひな。頼むから。