……ああ。
ひな。
あのことについて、謝ってなかったな。
あれは違うんだ。頭が真っ白になってた。酷いこと言ってごめん。オレが臆病だったから、友達を裏切るのが、裏切りものって責められるのが怖くて、お前の気持ちから逃げたんだ。
傷つけたよな。
ごめんな。……ごめん。
(そうか、もう、)
――謝ることすらできないのか。
そのことにようやく気がついたのは、彼女が死んで、通夜と葬式が終わって、二日も経った日のことだった。
……佐古はその一週間後には、クラスメイトの久保と付き合っていた。ただ、あいつが死ぬまで明るくて華やかだったはずの久保は、彼氏のはずの佐古といると、なぜかつねに青い顔をしていた。
*
好きだった子が死んで、心の大切な部分がぽっかり空いたオレのもとに刑事が現れたのは、彼女が死んだということを正しく認識してから間もなくのことだった。
中年くらいの所轄の刑事は、念のため、事故以外の可能性を調べているのだと言った。オレははじめてそこで、彼女の事故死が地方新聞の小さな記事になっていることを知った。
(……あいつの死って、世間ではこんな小さい記事でポツンと知らされるようなもんなんだな。)
そんなことを思って、勝手にむなしくなって。
でも、あいつを傷つけて謝ることもできなかったオレが言うことじゃないって、そう思って。
――でも、そうか。
もしかしたらあいつは、事故死じゃなかったのかもしれないのか。
事故でなければ自殺か、他殺か。デートの直後に自殺は考えにくい。そもそもあいつは佐古とうまくいきそうだったんだ。だったら他殺か。それなら犯人がいるはずだ。誰かなにか、見ていないか――。
……オレはそれから、情報収集に走った。
あいつのためでもあったが、オレ自身のためでもあった。何かに必死になることで、悲しみを吹き飛ばしたかったんだと思う。
それにもし、あいつが殺されたのだとしたら――絶対、犯人を許せないと思った。
……けれど、あいつの『事件』の捜査が終わるのは、案外すぐのことだった。結局、慣れないヒールで階段を下りたから、転んだんだろうと。
それでもオレは諦めきれなかった。
何年経っても、情報収集はやめなかった。あの日のことを目撃した人がいないか探し続けた。……それはまさしく執念だった。
そして奔走の末、当時の野次馬の男を見つけて、現場から走り去る若い女がいたことを知った。男はその女の容姿こそうろ覚えだったが、その女があまりにも怯えている様子で、さらにその場から逃げ出すように走っていったので、怪しいと思っていたそうだ。
ノートに記事を貼った。忘れないように。
調査の結果を、書き残した。シャーペンを握る手にはいやに力が入ってしまったけど。
決意表明を書いた。あいつが殺されたなら犯人を見つけ出してやる。
文字列を見ていたら涙が出てきた。零れた涙が、ノートを湿らせた。
こんなことをしても、あいつは戻ってこないのに――。