「・・・あれから八年も経つのか、あっという間だったな」



 四人で写っている写真を手に取り、彼の顔をそっと指でなぞる。八年前のあの春に高校生のまま取り残してしまった彼を。



 今日は彼の命日で、早退することになっているので、職員室に戻り鞄を持って帰る支度をする。



「あ、ちょうどいいところに春川先生。明日から、春川先生のクラスに新しい子が入るので、よろしくお願いしますね」



 教頭先生が私に微笑みながら話しかけてくるので、急いでいるが無視するわけにもいかない。教頭先生は異常なくらい優しくて、私が新任の時には色々と面倒を見てもらったのだが、話が長いのだ。



 それに、この先生は...今日は暗くなってしまう前に海のお墓に行きたかったので、思わぬ相手に肩を落とす。



「え、この時期にですか?」



 入学式から既に二週間経過しているので、時期的になかなか珍しい。



「そうなんだよ、転勤とかで色々あったらしくてね。明日からでないとダメだったらしいんだ」



「どんな子なんですか?」



 早く切り上げたかったが、どんな子なのか聞かないわけにはいかない。明日から私のクラスになる子だから。



「んー、それが少し変わっていてね。妙に大人っぽいんだよ」



「え、どんなところがですか?」



 そんな一年生がいるのだろうか。今私が見ている子どもたちは、みんな子ども特有のあどけなさがあるというのに。



「いや、話はしなかったんだ。ただね、私とその子と親御さんで話している時にその子はずっと窓の外を見ていてね。その横顔がどうしても私には、一年生のするような表情には見えなかったんだよ。寂しそうな、悲しげな表情をしていてね・・・」



「そうなんですね。頑張って話しかけてみようと思います」



 少しだけ不安もあるが、不安を抱いたところで何も変わらないので、家に帰ってから考えようと思い荷物を肩にかける。



「春川先生・・・」



「教頭・・・いえ、小林先生。今日は彼の命日なんです。だから今日はこの辺で・・・」



「あぁ、そうだったね。これ以上は野暮だね。気をつけて行ってらっしゃい、希美ちゃん」



「先生・・・その呼び方はダメですよ。今は同僚なんですから」



「つい昔を思い出してね・・・」



 目頭を指で押さえながら笑顔で私の背中を押してくれる私たちの恩師。顔には昔よりも皺が増えていたけれど、優しい笑顔なのは変わらないみたいだ。



 海を支えてた言葉を授けてくれた先生とこうして共に働けているのも、もしかしたら海のおかげなのかも。



「行ってきます」