俺はちょっと寂しいと思ったけどね、とユーイチは付け足して、続きを話す。

「なのにさ、空へ旅立ったままもう帰ってこねえんだよ。初めは一年くらいでまた会える予定だったのに、そう信じて疑わなかったのに、この太平洋に飛行機ごと飲まれて死んだ。遺体すらも発見されずに」

 この話は本当なのだろうか。

 と、まだしぶとく疑うわたしは、相当な頑固者。けれどそれほどに、信じ難かったんだ。

 ユーイチのお父さんがもう、この世にいないなんて。

 今にも泣いてしまいそうなのに、決して泣かまいと歯を食いしばるユーイチの横顔は、わたしよりもうんと強い人間に見えた。
 わたしだったらこんな場面、泣き崩れてしまいそうなのに。

 ユーイチから目を外し、わたしも彼の見つめる先に視線を送る。

 世界で一番広い海、ここは太平洋。
 一直線に長く伸びる水平線の向こう側にあるのは、広大な大地を有するアメリカだ。

 ユーイチのお父さんは、この広い海を越えることができなかったらしい。

 旅客機に搭乗さえしてしまえば、ほとんどの人が無事に行くことができるのに、僅かなパーセンテージに飲み込まれて、亡くなったらしい。

 確率なんて問題じゃないんだ。

 ユーイチの声が、木霊する。

 明日の俺等が生きてるか死んでるかなんて、それは誰にもわからない。俺等は『今』しか、生きることができないんだよ。

 誰も知り得ない未来に恐れる自分は、もしかしたら大馬鹿者なのだろうか。