サンダルのまま、くるぶしほどまでを海にお邪魔させた彼は、太陽のカケラの数々を一度高く蹴り上げて、こちらを向く。

「10パーセントだとか言ったっけ。お前がアメリカで手術を受けて、助かる確率」

 煌めく飛沫(しぶき)の中、真顔のユーイチ。「うん」と声を投げると、「そっか」と返ってくる。

「10パーセントか。それじゃあその中に和子が入って、無事に日本に戻って来ればいいだけじゃんか」

 そうはっきりと言われたけれど、その10パーセントに入ることが難しいのだよと、わたしは思った。

 そうだね、だなんて到底頷けるはずもなく、口を噤んでしまうわたし。その間も絶え間なく、波は打ち寄せ引いていく。

 このままわたしの首が縦に振られることを待たれても、一生その瞬間(とき)は訪れないだろう。

 ただこうしてふたり、波音を耳にして、視線を絡ませる時間だけが過ぎていくと、そんな風に思っていた時だった。

「あ」

 わたしたちの真上の空を通った飛行機が、悠々自適に、太平洋の領空を飛んで行くのが見えた。

 水平線の向こう側。
 あの旅客機の行く先はおそらくそこ。

 おもむろに顔を上げたユーイチは、しばらくその機体を見つめて、そしてまたおもむろに、その顔の位置を戻していた。

 彼の人差し指が、空へ向かって立つ。

「飛行機が墜落して乗客が死亡する確率は、0、00048パーセント。俺の父さんは、その20万5552分の1の確率に入って、亡くなった」