思いの丈を吐き切ると、次はユーイチが話す番。

「どうしていつ訪れるかもわからない『死』を、和子は人生の予定に組み込んでるの」

 (まじろ)ぎもしないユーイチの瞳。

 束の間吸い込まれそうになってまた、どこを見たらいいのか困ってしまって。

「だ、だってわたしは死んじゃうからっ」

 と、俯きがちに言った。

 聞こえてくるのは、ユーイチの重低音。

「それっていつ」
「い、いつかはわかんないけど。手術を受けたって受けなくたって、近いうちにっ」
「近いうちってなに。だからそれって、いつのことなんだよ。今日なのか明日なのか、それとも一ヶ月後のことなのか。お前はどれくらい先の未来の話をしてんの?」

 捲し立てるようにそう言われ、キーンと耳鳴りにでもあった気分。

 追い詰められたわたしは、大きな声で対抗する。

「知らないよ、そんなの!でもお医者さんに言われたんだからしょうがないじゃない!あなたの命はもう長くはないですって、その心臓は半年もつか、はたまた一ヶ月としてもたないか、明日突然止まってしまってもおかしくないですって、そうはっきり言われたんだから!ぶっちゃけ今生きてるのがあり得ない状態なんだよ!」

 とても乱暴な口調だった。これじゃあ八つ当たりではないかと。

 はあはあと肩で呼吸をするわたしを見て、ユーイチは心臓に負担がかかることを心配してくれたのか、それに競うような言い方はしてこなかった。

 わたしたちふたりを背後から照らす陽が、ふたつの影を海へと忍ばせる。

「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」

 そのうちひとつの影が立って、海の方へと歩いて行く。

「今の和子は、一体何パーの確率の中で生きてんだよ。そんでその何パーが超少ねえ数字だとしたら、じゃあなんで確率なんてものあてにしてんだよ」