海一面に隈なく落ちている光のカケラが、不規則に揺蕩(たゆた)う。
 こんな心情の最中(さなか)でも、それを綺麗だと思うのだから不思議だ。

「アメリカで手術を受けたら……そ、その日に死んじゃうかもしれないのに、ひどくない……?だって助かる確率なんて、ものすごく低いんだよ……?」

 胸に手をあてて、荒ぶる鼓動を落ち着かせる。ユーイチが、そんなわたしを心配そうに見つめている。

「お父さんとお母さんは、いいよそれでもっ……もしわたしが死んじゃっても、それでも最後の最後までなにかしてあげられたっていう達成感が生まれるから……でもわたしは、わたしはそこで終わっちゃうんだよ……?わたしの命はもう、そこで尽きちゃうんだよ……?」

『人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ』

 テメさんに教わったチャップリンの名言が、頭を過ぎる。
 長生きをし、『人生』という壮大な物語を振り返れる確信のある人々だけが共感できる、この言葉。

 わたしは無理だ。

 悲劇を喜劇と思う前に、悲劇は悲劇のままに終わって死んでしまう。

 だってわたしは、主人公には向いていない人種だから。漫画やアニメのようにやり直しのタイムリープはできないし、無論、奇跡だって起こりはしない。

 鳴き続ける蝉の中、ひぐらしの声は見つからなかった。

 空の青と海の青を仕切る水平線に、じっと見られている気になった。

「なんで和子は、『死ぬこと』を前提にして話すの……?」