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 海に来た。

 と言うか、ユーイチに連れて来られた。

 テメさんと別れたわたしたちは、お昼ご飯には少し早い、コンビニのおにぎりを小腹満たしに食べて、このあとどうしようかって会議をして。

 家にはまだ、帰りたくない。

 そう言ったら、「じゃあ海でも行くか」ってユーイチは軽いノリで言ってきて。まさかとは思ったけれど、電車に二時間乗って本当の本当に、海に来た。

 東京から日帰りで行ける海はいくつかあるけれど、ユーイチは千葉県の銚子(ちょうし)っていうところにある海を選択していた。
 わたしたちが住む東京からなら、もう少し近い距離にも海はあるのに。

 海岸の最寄り駅からレンタサイクルを一台借りた彼は、その後ろにわたしを乗せた。

「ちゃんと掴まってろよ、和子」
「うん」
「よし、しゅっぱ〜つ!」

 やたらとテンションの高いユーイチがペダルを踏めば、ゆっくりと動き出すまわりの風景。

 ぎゅっと彼の腰付近にある生地を掴み、身を任せると、柔らかな潮風が頬を撫でていく。

「俺、海久々ーっ。和子は?」
「わたしも」
「そーいや、こうして和子とする二尻(にけつ)も久しぶりだよな。最近は取り締まりが厳しいらしいから、警察に捕まらないようにしねーと」

 小さい頃よく、親たちに注意された自転車のふたり乗り。それをあろうことか、高校生になってもするなんて思ってもみなかった。

 少し斜め上のこの角度、そして近距離で見るちょっとくせのある襟足が懐かしくて、心をくすぐられた。