雲のもっともっと向こう側、空の遠くを見つめる彼の頭の中は今、玲ちゃんのことでいっぱいなのだろう。

 いつも陽気なテメさんが初めて見せる沈んだ顔色に、わたしの心がズキンと痛む。

 どうにかして玲ちゃんと会わせてあげられないかな、と考えていたら。

「玲ちゃんは、今どこに住んでるんですか」

 と、いくらかトーンの落ちた声音で聞いたユーイチ。しかし、「知らない」と返すテメさん。

「奥さ……元奥さんとはもう連絡が取れないし、玲は保育園とかにも預けてなかったから調べようがないんだ。一回だけ、元奥さんの実家に足を運んでみたけどそこにもいなかった。探偵を雇おうにも金はないし、その他のつてもないし。だからもうお手上げ」

 婚姻相手が勝手に子どもを連れて出て行ってしまった場合の対処法は、わたしにはわからない。けれどこれは不条理なことなのだから、法的手段を取ればどうにかなるんじゃないかとも思った。

 けれど。

「まあ、ふたりが今幸せに暮らしてるんだったら、俺はそれでいいんだけどね。いつかきっとまた、どこかで会えるって信じてるし」

 と、テメさんがくしゃっとしわの集めた目尻と共に微笑むから、わたしはなにも言えなかった。

 いつか、きっと、また。

 訪れるかもわからない、そんな未来を信じてやまないテメさんのことを、わたしは今日もポジティブだと思う。

「だったら、スマホで撮った動画を配信してみるっていうのはどうっすか?」

 思いを巡らせているわたしの隣で、ユーイチが大きく一歩前に出た。

「テメさんの歌ってるとこを俺たちが撮影してネットに上げれば、もしかしたら玲ちゃんの目に留まるかもしれない」