急展開についていけぬわたしの前、ポケットに手を突っ込みながら一歩近付いてきた彼は、わたしの手を無遠慮に持って掴むと、これまた無遠慮に、そのポケットから取り出した一粒の飴玉を押し付けてくる。

 手のひらに置かれた丸いものに、目を落とす。外灯の乏しい暗がりの中だから、パッケージの色も、それに書かれたカタカナらしき文字も、よくわからなかった。

「えーと……」

 知り合ってまだ五分も経っていない他人(ひと)から、唐突に渡された飴玉。「いただきます」と素直に舐める気なんてさらさら起きずに、突き返そうか迷っていると。

「おだんごちゃん、聞いて驚けよ。これはなんと、ココアサイダー味だ」

 だなんて耳を疑う組み合わせを言ってくるから、わたしは驚いてしまった。

「ええ!ココアサイダー味!?なにそれまずそう!」
「だろ?まずそうに思うだろ?だけど意外とイケんだよ、舐めてみろ」
「ええ〜……」

 興味はある。でも、口に入れる勇気はない。
 だけどわたしの頭の中からは、飴玉を突き返すという選択肢はなくなった。

「じゃあ今度、気が向いたら舐めてみますね」

 真顔でそう言って、パンツポケットに飴玉をしまったら、図らずともスマホにあたった手が、チリンとお守りについている鈴を鳴らしていた。

 手を表へ出す時に、またチリンと鳴れば、ちーちゃんが恋しくなる。

 大人しく飴玉を受け取ったわたしを見て、目の前の彼は満足げに微笑んでいた。

「それじゃあ俺、帰るわ。またな、おだんごちゃん」

 ポロンと挨拶の如く奏でたウクレレと共に、わたしの真横の風を切った彼。

 思わず振り返り、彼の背中を目で追うが、遠ざかるとばかり思い込んでいたその後ろ姿は、すぐそこの橋の真下で腰を下ろしていた。