彼がいる川沿いのアスファルトには、小橋のたもとから下に向かって伸びている階段を(くだ)ればすぐに着く。

 とんとんと下りる、十五段ほどの段差。

 川風に襟足を靡かせながら、彼はまるで、恋人でも待つかのような爽やかな表情でわたしの到着を待っていた。

「あの、お言葉ですが。ちーちゃんは健在なのでっ」

 彼の面前に着いたわたしは、早速強い口調でそう言った。

「なので、勝手に殺さないでくれますか」

 もし、これでもちーちゃんに対して「死んじゃった」だなんて表現を使ってくるものならば、今すぐちーちゃんに電話して、彼女の透き通るような美声を聴かせてやろうかと、そう思ったけれど。

「悪かったよ、ごめんって」

 と、すんなり謝られてしまったので、拍子抜けする。

 彼の襟足が、再び靡く。
 ちゃぷんとまた、水面(みなも)でなにかが跳ねていた。

 あれ、会話終わっちゃった。

 口論する気満々でここにやって来たものだから、謝罪された途端に、手持ち無沙汰になったわたし。
 ならば(きびす)を返して、元いた小橋の上(ばしょ)に戻ればいいのだろうけれど、彼がわたしの存在に気付いてしまった以上、あそこでひとり、思いを馳せたりはできないし。

 まだ家には帰りたくないしなあ、どうしよう。

 と、考えていたら、どうしてだか差し出された飴玉。

「おだんごちゃん。飴、食う?」
「はい?あ、飴?」
「え!飴知らねえの?」

 いやいや、飴くらい知ってるよ!驚いたのはそこじゃない!