太陽と木々が織りなす、光と影のコントラスト。木漏れ日のカーテンを抜けたら、もうすぐ病院へと到着する。

 窓の外に視線を送り続けながら、改めてこの十年間を振り返ったわたしは、ユーイチへの感謝が止まらなかった。

 ユーイチだって、時には病院よりも優先させたい予定があっただろうに。

 ユーイチだって、こんな朝早くから出発して辿り着く場所が、なんの面白味もない病院だなんて、うんざりする日があっただろうに。

 いつも文句ひとつこぼさず付き添ってくれて、本当にありがとう、と。

 首をまわし、ちらりと背後に投げる視線。目が合ったユーイチに、「なに」と聞かれ、「なんでもない」とぶっきらぼうに返す。

「はあ?なんだよ言えよ。気になんじゃんか」
「だって、なんでもないんだもん」
「いやいやいや。それならなぜ急に俺を見つめてきた」
「はあ!?見つめてなんかないし!この自意識過剰男!」
「うっせ、入道雲女!」
「おだんごだってば!」

 こんな子どもじみたわたしたちふたりのやり取りに、お母さんがくすくす笑う。

「さあ、もうすぐ着くわよ。和子も裕一くんも、忘れものしないようにね」

 気恥ずかしくて、今日はこんな風にはぐらかしてしまったわたしだけれど、次の機会には、必ず伝えようと心に決めた。

 ユーイチ、今まで本当にありがとうね。わたし、ユーイチといるの楽しかったよ。

 って、この世を去るまでには絶対に。