「そろそろ、行く……?」

 しばらくして、その影が霞む頃。

 途方に暮れるだけの時間に終止符を打ちたがったユーイチが、わたしの腕を緩く掴んだ。

「もうじき暗くなるし、和子の母さん心配してんじゃねえの……そろそろ家、帰んなきゃ」

 ユーイチの家を出る際、お母さんに『今から帰るね』と連絡は入れてしまってあるから、彼のその意見には頷けた。

 でも、だけど。それじゃあテメさんの荷物はどうしたらいいの。

 貴重品や着替え、そして大事な家族写真が入っているこの大きなボストンバッグを野放しにして帰る踏ん切りがつかなくて、わたしはイエスと言えずに俯いてしまう。

 どこに行ったの、テメさん。今、なにをしているの。

 そう心の中で問いかけても、もちろん回答は得られない。

「和子、まじでそろそろ……」

 と、焦れたユーイチから再度帰宅を促された時だった。

「あれ、おだんごちゃんじゃないか」

 テメさんの、声がした。