「なにそれ、ばかみたいっ」

 お腹に手をあてて笑うわたしに、「うるせえっ」とユーイチが頬を赤らめる。

「和子がいけないんだろっ。ちゃんと玄関のインターホン鳴らして俺んちに入って来ない和子がっ」
「だってわたしの家から来ると、玄関にまわるよりもこの部屋の窓の方から入った方が近いんだもん」
「それでも普通は、玄関から入んだよっ」
「いーじゃんべつにー。馴染みの仲なんだからっ」

 なんだその理屈、と結局ツッコまれたのは、わたしの方。
 先ほど自宅で抱いた負の感情が、浄化されていくのがわかった。

「そろそろ帰ろうかな」

 笑いがおさまったタイミングでわたしが立ち上がると、ユーイチもよいしょと腰を上げた。

「送るよ」
「べつにいーよ。まだ明るいし、面倒くさいじゃん」
「そらそーだよ、めんどくせえよ」
「だったら──…」
「でも送る。またどっかで倒れられても、困るし」

 そう言って、気だるそうにパンツポケットへと両手を突っ込むユーイチ。愛嬌は皆無だけれど、優しいなあと思った。