それは一瞬、ギターの音かと思ったけれど。
ポロン ポロン
何度か耳にすれば、ああと思う。これはウクレレっていう楽器の音だ。
夜の八時を過ぎたこの時間に、誰が弾いてるんだろう。しかもこの曲、今わたしが歌ってた誕生日の曲なんですけど?
橋の上から見える、アスファルトで整備された川沿いに視線を投げる。するとそこに、ひとつの人影が見えた。
「あ」
と、思わずわたしの口から一文字抜けていったのは、その人影と、ばちっと目が合ったから。
暗くてよくは見えないけれど、その背格好から、男の人なんじゃないかなと思った。おそらく高校二年生のわたしよりは、年上だろう。
あ、の口のかたちのまま、その男の人から視線を逸らさずにいると、彼は手元のウクレレを鳴らすことをやめて、「おーい、そこのおだんごちゃん」と声をかけてくる。
「そんなとこで、なにしてんのー」
彼がわたしのことを『おだんごちゃん』と呼んだのは、きっとこの、おだんご風にアレンジされたヘアのせい。長い髪を暑いと感じる季節は、わたしは大体この髪型を好む。
ふたりの距離はそんなに遠くはないし、辺りは静かだから、会話することに支障はなし。
彼はもの言わぬわたしに、再び口を開けてくる。
「祝う相手もいないのに、ひとりで『ハッピーバースデー』歌うやつなんかいないぞー」
そう言われて、恥ずかしくなる。せめてちーちゃんと電話を繋げながら歌えばよかったと思った。
ポロン ポロン
何度か耳にすれば、ああと思う。これはウクレレっていう楽器の音だ。
夜の八時を過ぎたこの時間に、誰が弾いてるんだろう。しかもこの曲、今わたしが歌ってた誕生日の曲なんですけど?
橋の上から見える、アスファルトで整備された川沿いに視線を投げる。するとそこに、ひとつの人影が見えた。
「あ」
と、思わずわたしの口から一文字抜けていったのは、その人影と、ばちっと目が合ったから。
暗くてよくは見えないけれど、その背格好から、男の人なんじゃないかなと思った。おそらく高校二年生のわたしよりは、年上だろう。
あ、の口のかたちのまま、その男の人から視線を逸らさずにいると、彼は手元のウクレレを鳴らすことをやめて、「おーい、そこのおだんごちゃん」と声をかけてくる。
「そんなとこで、なにしてんのー」
彼がわたしのことを『おだんごちゃん』と呼んだのは、きっとこの、おだんご風にアレンジされたヘアのせい。長い髪を暑いと感じる季節は、わたしは大体この髪型を好む。
ふたりの距離はそんなに遠くはないし、辺りは静かだから、会話することに支障はなし。
彼はもの言わぬわたしに、再び口を開けてくる。
「祝う相手もいないのに、ひとりで『ハッピーバースデー』歌うやつなんかいないぞー」
そう言われて、恥ずかしくなる。せめてちーちゃんと電話を繋げながら歌えばよかったと思った。