不敵な笑み。

 今のテメさんの表情を説明するには、この表現が一番しっくりくる。

 そっか、そうだよね。信じて生きていたら、人生は楽しいよね。

 試しにわたしは、自分自身へそう言い聞かせてみた。

 信じるんだ、和子。自分が信じたいことを、ただ真っ直ぐと信じればいい。アメリカでの手術は成功して、必ず日本に帰って来れるって。

 何度か言って聞かせて、わたしもテメさんのようなポジティブシンキングを手に入れたいと切に願う。

 弱気になるな、心配するな和子。あなたの心臓は、絶対に治るに決まってるでしょっ。

 楽観的になりたかった。希望を持ちたかった。

 ……だけど、だめだった。

 10パーセントという眇眇(びょうびょう)たる数字が、わたしをこの沼底のような闇から抜け出させてはくれなかった。

 いつこの心臓が止まってしまうのかと、毎日恐怖にさらされているわたしにはもう、人生を遠くから見て喜劇だとか言える余裕はない。

 チャップリンの名言を名言として受け取れる人々は、この先まだまだ人生は続くと、長く生きることができるのだと自信のある人たちだけだとわたしは思った。

 どう足掻いても、わたしは決してその仲間には入れない。だって断然、死ぬ確率の方が高い。

 そんなわたしは、偽りでもこの名言に頷けないよ。

 あぐらを崩し、静かに立ち上がったわたしを見て、テメさんは「もう帰るのか?」と聞いてきた。
 そんな彼に頷いて、立ち去ろうとすると。

「そうか。じゃあまたな、おだんごちゃん。高校二年生の夏休み、たっぷり満喫しろよ」

 そう言って、ししっと白い歯を広げて見せてきたテメさん。

 反射的に笑顔を作ったわたしだったけれど、それはとても脆くて、薄っぺらいものだった。