テメさんの親指が示す先を目で辿ったわたしも思わず、自分の胸元に手を運んでいた。すると、とくとくと一定のリズムで拍動している心臓に、「わたしはちゃんと動いてるよ」と、存在をアピールされたような気になった。

 その心臓は半年もつか、はたまた一ヶ月としてもたないか。明日、突然止まってしまってもおかしくない状態にあります。

 鼓膜にへばり付いて離れない、あの日のお医者さんの声。

 命とか人生の話は、あまり長くはしたくない。

「そっか」

 だからわたしは、丁寧に答えてくれたテメさんに対して、短い返事で返した。

 川辺についてからずっとしゃがみ込んでいた足が痺れてきたので、わたしもテメさんのように、お尻をアスファルトにべたりとつけた。
 彼があぐらをかいていたから、わたしもなんとなく、そのかたちになる。

 夏にしては、涼しげな川風。

 さらさらとわたしのルーズなおだんごヘアの後れ毛をもてあそぶと、空へ気ままに帰って行く。

「家族は、どうしていなくなっちゃったの?」

 テメさんの一日に続いて、今度はこれが気になった。

 家族を失った俺の人生、という言葉が、わたしの胸をきゅっと締め付けている。

「どうしてテメさんには、家族がいないの……?もしかしてお父さんやお母さんと仲が悪くて、家出でもしてきたの……?」

 こんなこと、他人のわたしが聞いていいのかな。

 そう不安に思いつつ、上目でテメさんのことを見る。
 彼が次に発する言葉が何だともし知っていたとするならば、わたしはこんな質問、しなかったかもしれない。

「ある日家に帰ったら、誰もいなくなってたんだよね」