理不尽な不機嫌が鎮まるまで、おそらく五分くらいはかかったと思う。

 その間ずっと無言で、浅い呼吸を繰り返すわたしのことを、お母さんは抱きしめてくれていた。

 時折背中を撫でてきたり、とんとんと赤子をあやすようにそこを叩いてきたりと、お母さんはわたしを沈着させることに勤しんだ。

 とんとんとんとんと、何度も背中の真ん中へ送られるそのリズム。

 わたしはもう十七歳の高校二年生だっていうのに、恥ずかしながら、その振動で次第に落ち着いていったんだ。

「ごめん、お母さん……」

 冷静さを取り戻せば、たちまち後悔の波に襲われる。

「花瓶の水、全部こぼしちゃった……お花、大丈夫かな……」

 この季節にふさわしい、鮮やかな黄色のひまわり。

 一輪あるだけでも部屋に彩りを添えて、わたしのせいでずっと淀んでしまっている家庭を明るくしてくれていたのに。

 不安げなわたしの傍、お母さんは優しい声で「大丈夫よ」と言っていた。

「気にしないで、和子。また新しいお水を入れれば大丈夫だから。少し元気がなくなっても、すぐにまた元気になるわ」

 だったらわたしもひまわりの花になりたいと、そう思った。