さっきから、虫がわたしのまわりを飛んでいる。嫌がるわたしをおちょくるように、ぶんぶんぶんぶん飛んでいる。
「うっざ」
と言って、パンとそれを手で叩く。するとわたしの手のひらで、平たく伸びて絶命した。
なにも悪いことはしていないのに、殺された虫。
その亡骸を見ても、微塵も可哀想だとは思わないのに、病を抱える自分のことは憐れむなんて、わたしは最低だと思う。
虫の亡骸をティッシュで包み、自室のゴミ箱へと葬った。
時刻は朝の九時半過ぎ。終業式に出席しないまま夏休みを迎えるわたしに、ユーイチが呆れている頃だろう。
「和子おはよう。朝ごはん、食べる?」
リビングへ顔を出したわたしに、お母さんがそう聞いた。
家にはわたしと彼女のふたりきり。サラリーマンのお父さんは、毎朝七時には家を出ている。
なにか食べたい気もするし、まだお腹が空いていないような気もしたわたし。
けれど連日少食なわたしに、お母さんが心配でたまらないという顔をしていたから、こくんと頷くことを選んだ。
「うん、食べる」
さすれば安堵したように微笑む彼女。
「よかった。ごはんとトースト、どっちがいい?」
「じゃあ、トースト」
「わかった」
そう言って、お母さんはキッチンへと向かって行った。
ジジ、と食パンをトースターにかける音が聞こえてきたかと思ったら、コンコンパカッと、卵を割る音も聞こえてくる。
トーストだけかと思ってたのに……卵まで、食べられるかな……
「うっざ」
と言って、パンとそれを手で叩く。するとわたしの手のひらで、平たく伸びて絶命した。
なにも悪いことはしていないのに、殺された虫。
その亡骸を見ても、微塵も可哀想だとは思わないのに、病を抱える自分のことは憐れむなんて、わたしは最低だと思う。
虫の亡骸をティッシュで包み、自室のゴミ箱へと葬った。
時刻は朝の九時半過ぎ。終業式に出席しないまま夏休みを迎えるわたしに、ユーイチが呆れている頃だろう。
「和子おはよう。朝ごはん、食べる?」
リビングへ顔を出したわたしに、お母さんがそう聞いた。
家にはわたしと彼女のふたりきり。サラリーマンのお父さんは、毎朝七時には家を出ている。
なにか食べたい気もするし、まだお腹が空いていないような気もしたわたし。
けれど連日少食なわたしに、お母さんが心配でたまらないという顔をしていたから、こくんと頷くことを選んだ。
「うん、食べる」
さすれば安堵したように微笑む彼女。
「よかった。ごはんとトースト、どっちがいい?」
「じゃあ、トースト」
「わかった」
そう言って、お母さんはキッチンへと向かって行った。
ジジ、と食パンをトースターにかける音が聞こえてきたかと思ったら、コンコンパカッと、卵を割る音も聞こえてくる。
トーストだけかと思ってたのに……卵まで、食べられるかな……