アメリカになんか、行きたくない。やだやだやだやだ。
 だって名医の手術を受けたところで、わたしが生き残れる望みはたったの10パーセントしかないのだから。

「行かない」

 さっきよりももっと唇が震えてしまったのは、ユーイチが凍らしてきた背筋によって、寒気を感じたせいだ。

「わたしはアメリカになんて、絶対に行かない。僅かな確率に縋る気なんてないからっ」

 唇と同様に震える声でそう言ったら、ユーイチはそれ以上無理には勧めてこなかった。

「そ……」

 と落胆気味の顔をされ、会話は終了。不穏な空気に包まれて、うんざりした。

 人生という物語の中で、わたしは主役になれない(たぐい)に属する人物。

 だからべつに、わたしは影の薄い脇役だっていいし、その他大勢の、名もなきモブキャラだって文句は言わないけれど、せめて自ら命を()すことだけはしないキャラクターでいたい。

 どうせもうすぐ、この命は終わってしまう。寿命を間近に控えているのに、自らエックスデーを設ける必要はない。

 気まずくなり、立ち上がる。
 窓から外へ出ようとしたわたしの背中にかけられた、ユーイチの声。

「明日の終業式も、学校来ねえの?」
「……」
「来いよ。このまま夏休み入ったら、二学期はもっと行きづらくなる」

 二学期には、もう死んでたりして。

 なんて笑えない冗談を思い浮かべながら、わたしは無言で窓から表へ。

 星なき暗い夜空を見上げながら、行く家路。

「最後シカトしてごめんね、ユーイチ……」

 と、反省はしたけれど、だからと言って、学校へ行く気はさらさらない。