「大丈夫か」
「ん……」
「少しは楽になってきた?」
「ん……」

 糸のようなか細い声で返事をして、涙目の中心にユーイチを置いてみれば、滲んだ彼が、ほっと胸を撫で下ろしているのが見えた。

 カチカチと、掛け時計の秒針が動く音が煩わしい。けれどもそれよりももっと煩わしいと感じたのは、そこに重なったユーイチの声だった。

「なあ和子。やっぱりどうしても、アメリカでの手術は受ける気ないのか?」

『アメリカ』と、『手術』

 このふたつのワードは、わたしの背筋を凍らせる力を持っている。

「アメリカに行けば、その心臓は治るかもしれない。それなのに、行かないの?」

 瞬間冷却された背筋に、走っていく虫唾。

 わたしはバケモノでも見るような瞳で、ユーイチを見てしまった。

 なにを言ってるの、ユーイチ。それだけは、言わないでほしいのに……

 まるで親みたい。

 と、そう思った。

 (まばた)きすらできなくなったわたしに、ユーイチはさらに続けてくる。

「このままじゃ心臓が壊れる前に、和子が壊れちまう。早いところアメリカに行って手術を受けなきゃ、まじで後戻りできなくなんぞ」

 90パーセントの確率で、死ね。

 べつにそんなことを言われたわけじゃないのに、ユーイチの言葉を勝手に変換した脳が、そう受け取った。