そんなわたしは、ただの偽善者なのかもしれない。こうして他者に同情している自分に、酔っているだけだったりして。

 ううん、ちがう。だってテメさんは気の毒だもん。

 そう思ったから、わたしは天井から視線を外した。

「ホームレスの人たちの気持ちがどうもなにも、可哀想に決まってるでしょ」

 天井から外された視線はそのまま、真っ直ぐとユーイチに向けられた。わたしに遅れてそこから離した目を、彼もわたしへと向けてくる。

「テメさんは…あ、テメさんっていうのは、今日会ったホームレスの男性の名前なんだけど。テメさんは、気の毒で可哀想だったよ。だってあんな暗い場所で暮らしてて、キッチンもお風呂もトイレもなくって、そのうえ家族もいないんだから、明らかに恵まれてないじゃん」

 ユーイチと、交わる視線。バチッと火花が散った気がした。

「……そんなの、あっちは他人の和子に判断してほしくないだろ」

 強い口調だった。

「はたから見ただけじゃわからないことなんて、ごまんとある。人の心の内なんて、その人にしか知り得ないじゃん」

 きっぱりはっきりと、まるで確定していることのように話すユーイチ。

 テメさんと会ったこともない彼のどこから、そんなにも自信があふれてくるのか理解できなかった。

「和子はそのテメって人から、人生の色々を聞いたの?」

 両腕をももの上に預けたユーイチが、少し前のめりになって聞く。

 一方のわたしは、膝を曲げて体育座りの格好に戻した。