こんな愉快な人間は、そういない。

 腹を抱えて笑うわたしに、ユーイチは語気を強めた。

「もう明日じゃんか。和子がアメリカ行っちまうの。なのにお前、まじで俺んち来なさすぎっ」

 それは裏を返さなくても「寂しかった」の意味にとれたから、わたしはまたもや自惚れてしまった。

 じゃあ両思いじゃん。裕一くんは和子のことが好きだって、うちらの学年で噂になってるもん。

 果穂が言っていた言葉が、頭を過ぎる。
 今すぐに告白したい、そう思ったけれど。

「ユーイチ、今まで本当にありがとうね。わたし、ユーイチといるの楽しかったよ」

 と、口をついて出たのは感謝の言葉。

 これはいつか絶対に、ユーイチへ伝えたいと思っていたことだから、ようやく言えたわたしはスッキリしたけれど、どうやら彼は気に食わなかったらしく、眉をひそめた。

「は?なにそれ。まるで世界の終わりみたいな言い方すんなよ」

 そういうつもりは全くなかった。だけど、これがこの思いを告げる最後のチャンスだとも、思っていないわけではない。

 今日のわたしたちの位置は、ともに向き合い床の上。

 体育座りのわたしとあぐらをかくユーイチの視線が、いつもよりも間近で絡む。

「べつにいーじゃん。どんな言い方だろうが」
「いや、訂正しろ。今のは無理」
「ユーイチはわがままだなあ。じゃあ『楽しかったっす、あざっした』」
「だからなんで過去形で言うんだよ。それがむかつくんだってば」

 むっと怒りに満ちるユーイチの顔。わたしはそれを見て、大袈裟に笑ってやった。

 だって、こうでもしていないと泣いてしまいそうだったんだもの。荷造りや買い物に追われて忙しかったなんて、本当はうそ。
 本当は、ユーイチの顔を見たら日本から離れたくなくなるってわかってたから、だから会いたくなかったんだ。