「まあ!まだ着替えてもないの!?九時半には出発したいって、昨日言ったのに!」

 早く支度しちゃって!と言い、ポールハンガーにかけられていた高校の制服を、ユーイチの座るベッドへと放る彼女。

 わたしと目を合わせる。

「朝からバタバタしちゃってごめんね、和子ちゃんっ」
「あ、いえ。これからどこか、出かけるんですか?」
「それは、えーと……」

 言い淀んだユーイチのお母さんが、ユーイチにする目配せ。なにかわたしには言えないことがあるのか、視線だけで会話をしている。

「大丈夫だよ、母さん」

 だけどそれは一瞬で、ユーイチはあっさりと声を発した。

「和子には父さんが亡くなったこと、もう俺から話してあるから」

 それを聞いたユーイチのお母さんの目が、まるでコンパスで描いたように丸くなる。

「え、そうなの?」
「うん」
「なんだ。それならそうって、早く教えといてよ」

 そんな親子ふたりの会話を耳に、わたしは違和感しか抱かなかった。

 だってこれじゃあ、ユーイチのお父さんの死をずっとわたしに隠してきたみたいじゃないか。

 怪訝な目を、図らずともふたりに向けてしまった。
 そんなわたしに気を遣ったのか、ユーイチのお母さんは言う。

「じゃあ和子ちゃんも、一緒に来る?」