「父さん麦茶淹れるけど、和子も飲むか?」
「あー、うん」
「オーケー」

 そんな何気ない会話をしながらも、わたしは内心ドキドキしていた。

 いつ、切り出されるんだろう。
 いつ、あの話を。

 お父さんもお母さんも、そのタイミングを見計らっている気がして落ち着かない。

 だけどそわそわしている様子を見せるのも変だから、わたしは平常心を装った。

「ところで和子、話があるんだが」

 お父さんが選んだタイミングは、コップに注いだ冷たい麦茶をみっつ、食卓に置いた時だった。

 そのうちのひとつをわたしの前に、もうひとつをお母さんの前に。そして最後のひとつに口をつけながら、わたしのことを真っ直ぐ見てくるお父さん。

 ドキドキドキドキと、加速する鼓動。運動もしていないのに、心臓を(わずら)わせる。

「な、なに?」

 図らずとも、裏返る声。
 懸命に平然を装っていたのに、これでわたしが緊張していることはバレてしまったと思う。

 コップをゆっくりと置いたお父さんが言う。

「そろそろ本腰を入れて、アメリカで手術を受ける心の準備をしてほしい」

 ごくっと唾を飲む音がした。それはわたしの喉と、お母さんの喉から。

「先日の検診でも、医師は和子の早急なアメリカ行きを母さんに勧めてきたそうだ。和子が怖がる気持ちもじゅうぶんにわかるが、もうその気持ちを、父さんたちは最優先してあげられないところまで時期は来てしまっている。一刻も早くアメリカでの手術を受けて、和子の心臓を治さないと、本当に最悪な事態になりかねない」