「けれど、お父様…」


そう言って、和葉は自分の今の着ている着物に目を移す。

何度も繕い、所々に染みもある古くて汚れた着物だ。


「わたしの着物では、とても東雲家当主様の前に出るわけには――」


そもそも、晴れの日に着るような着物も持ち合わせてはいなかった。

そこが気がかりの和葉に、貴一は告げる。


「その必要はない。和葉は客間の外にいなさい」


その貴一の言葉に、和葉の顔からスッと笑みが消える。


…ああ、やっぱりそうか。

わたしは、部屋にも入れさせてもらえないのか。


和葉は切なそうに貴一を見つめるが、貴一はその視線には一切気づいていない。


「着物はそれでいい。お前は客間の外で気配を消して、東雲家当主に気づかれないようにして話を聞いておればいい」

「…はい。かしこまりました」