なぜ傘をさしているかというと、先程まで晴れていたというのに、まるでその男が連れてきたかのようにいつの間にか薄暗い雲がかかり、はらはらと大粒の雪が降り出していたのだ。


黒百合家の屋敷に向かって石畳の上を歩く男を、そっと部屋の窓から見つめる和葉。


…あれが『東雲玻玖』。

お父様によって、殺されるお方――。


心の中でつぶやく和葉。


しかし、なぜかその声が聞こえたかのように、いったん足を止めた玻玖が和葉がのぞく部屋の窓に迷うことなく目を向けた。


傘から見えたのは、新聞で読んだとおりの顔の上半分を白い狐の面で隠している男の顔。

面をつけてはいるが、なぜか目が合ったような気がして、和葉は慌ててしゃがんで隠れた。


「…びっくりした。今…、わたしの視線にお気づきに…？」


和葉はおそるおそるもう一度窓から外をうかがうと、そこにはもう玻玖の姿はなかった。