八重はそう言うと、乙葉を連れていってしまった。


――“ゴミ”。


和葉はギュッと木の枠を握りしめる。


割れる前のこの美しい朱色の枠の手鏡は、和葉が5歳のときに両親から贈られた誕生日プレゼントだった。


目を引く朱色の見た目に、鏡の裏には繊細な花の絵が描かれてある。


和葉の喜びように、両親も微笑んでいた。


和葉はこの10年以上もの間ずっと、この手鏡を大切に帯に挟んで持ち歩いていた。

これを見るたび、あのころの幸せだった日々が脳裏に蘇るからである。


ところが、その大切な手鏡が――割れた。

しかも、八重には『ゴミ』と言われ。


きっと八重は、もうこの手鏡のことは覚えてはいない。


和葉の瞳から、こぼれ落ちそうになる涙。


『泣いてはいけないよ』


そのとき、ふと頭の中に響くやさしい声。